龍は彷徨う
四龍(スーロン)島シリーズ二十一冊目は『龍は彷徨う』。
本編前作『闇に堕つ』で、まさにどん底に突き落とされた(泣)飛(フェイ)くん。
この巻は、飛くんが絶望の淵から何とか立ち上がる復活篇とも言えましょう。
まずは、恒例(笑)表紙イラストに対するコメント。
闇を背景に佇む飛くんとマクのツーショットです。
ま、ツーショットなのはいつものことですが(笑)、
飛くんは、紫の牡丹の刺繍のある黒い袍(パオ)姿、マクは白い袍を身に纏っています。
飛くんの帯と、マクの髪を緩く纏めている布が同じ水色なのは、このイラストのポイントにしていいのでしょうか?(訊くな)
飛くんが手に持った透ける紗のリボン(?)が、
緩やかにふたりの身体に纏いつくように舞い、何処となく現実感のない雰囲気です。
しかし、それよりも何よりも飛くん好きで、妄想のカタマリである私の心を捉えたのは、↓の事実であります!!
飛くん、腰細っ!!!(笑)
もうもう、抱きついてキュキュッと腕でやんわりしっかり締め上げたくなるような(どんな表現だ)細さだよ……(悦)
堪りません!!(笑)
そんな邪念を抜きにしても(抜きに出来るのか?いや、それは難しい…/笑)、
綺麗に描いてくれているので、この巻の表紙イラストも好きです♪
敬愛する師父の刃に倒れた飛が死の淵から目覚めたのは、青龍(チンロン)・高楼街(カオロウチエ)だった。
雷英(リーイン)が、飛が死んだと偽って、高楼街の頭(トウ)のもとに彼を匿ったのだ。
愛する人に裏切られ、なにもかもをなくした飛。
このまま命を手放そうかと思い詰めた矢先に、マクシミリアンが生きているという知らせがもたらされる。
全てを失った飛に見えるのは、ただ一つ、マクシミリアンの冷たい銀灰の瞳だけだった……。
(文庫折り返し部分より)
なんか、全てを失った果てに飛くんが初めてマクへの愛に気付く、みたいなあらすじ紹介だな(笑)。
いや、間違ってはいないんだけど、いないんだけどね…「全てを失った」っていうのがなあ…(苦笑)
先に結論を言ってしまいますが、この巻から先を読み進めていくと、
結局、飛くんは何も失っていないんじゃないかと思う訳ですよ。
確かに、師父(シーフ)には裏切りという手酷い仕打ちを受けましたが、
代わりに手を差し伸べてくれる人が飛くんには多くいるのです。
彼らは皆、飛くんの優しさや気風の良さに救われ、彼に惚れこんだ人たちです。
飛くんが無償で与えてくれた優しさに、少しでも応えようと彼らは助け手を伸べるのです。
窮地に追い込まれた飛くんが、そんな彼らから次々に助力を得ていく姿を見ていると、
「情けは人の為ならず」という格言が自然思い出されてしまうのです(笑)。
正確には、飛くんが「全てを失った」ような気になって、そこで初めて、自分にとって一番大事なもの、
失いたくないものは何かに気付いたということです、そういうことです(何を再確認してるのか)。
まあ、それはさておき。
ストーリー冒頭の舞台は、四龍島を狙って企みを巡らす本土伍(ウー)家に続いて、騒動後の白龍市となります。
騒動の最中、火を掛けられ、殆ど焼け落ちてしまった花路(ホワルー)で、最も師父の企みに踊らされてしまったお馬鹿コンビ、
羅漢(ルオハン)と孫(スン)は、やっと正気付き、遅過ぎる激しい後悔と悲嘆に暮れていました。
彼らが最も悲嘆に暮れている理由は、飛くんを失ったことにありました。
飛くんが死ぬ筈はないと思っているこっちとしては「え?え?!」と戸惑う場面ではありますが、
雷英の企みによって、彼らは飛くんが死んだと思い込まされているようです。
それでも、何とか前へ進もうと決意した二人は、ばらばらになってしまった花路を集めることにします。
そうして、自分たちが見聞きしたことを改めて見直し、東州茶房主人(師父)や黒龍(ヘイロン)のことに気付いていきます。
喧嘩別れのような形になってしまった葉林(ユエリン)とも合流し、彼らは何とか道を見つけ出そうとするのでした。
ここの件では、飛くんを失ったことを悲しむ彼らの姿に、
飛くんが生きてると分かってても(苦笑)、涙が出てきました(泣)。
彼らにとって、如何に飛くんが大事な存在であるかが伝わってくるからでしょうか(涙)。
師父たちに利用されちゃった馬鹿共(葉林は除く/笑)でも、
飛くんへの想いの強さだけは認めてやるよ!(何故エラそうなのか)
一方、瀕死の重傷を負った飛くんは、青龍市の高楼街で目を覚まします。
どのような思惑があるかはこの時点では不明ですが、師父の命に従わず、単独行動を開始した雷英が、
ひとまず飛くんを周囲には死んだということにして、騒動の場から連れ出し、飛くんが酔った際に、
「肚(はら)のすわった男だ」と言っていたことのみを手掛かりに、高楼街の頭、酔熊(ツォイション)を頼ったのでした。
雷英の黒針(ヘイシン)で、仮死に近い昏睡状態に陥っていた飛くんは、目覚めた当初は記憶も混沌としていましたが、
記憶を蘇らせるにつれ、更に大きな混乱状態となってしまいます(汗)。
何とか、これまでの経緯を聞ける状態にはなったものの、十八年もの間、
師父が注いでくれた穏やかな優しさは全て、偽りだったのかと苦悩する飛くん。
その苦悩する理由というのが、裏切られて悲しいとか恨めしいとかいうのではなくて、
「なぜなら、感謝をしているから。こんなにも感謝を。」と、裏切られたと知っても尚、
消えずにいる師父への感謝の念故だというところに、またまた涙が出そうでした!!(笑)
ここに、飛くんの真っ直ぐさ、無垢さというのが現れていると思うのですよ!!
ああ、そんなキミが大好きだ!!(笑)
・「龍は彷徨う」名場面。
…さて、今巻も迷いましたよ(笑)。
で、飛くん総受好きとしては(笑)、やっぱ、これは外しちゃなんねえべ!(誰)ということで。
身体に負った傷以上に、心に大きな痛手を負った飛くんは、自暴自棄の状態のまま、目覚めて数日を過ごします。
雷英から全ての事情を聞かされた酔熊に、この先どうするのかと聞かれても、まともに答えることができません。
そんな飛くんに、酔熊はこのまま高楼街にいるかと提案をします。
「高楼街が嫌なら、いい妓楼を教えてやるよ。
何にも考えずに、ようやく生きられりゃあいいていうんなら、男娼窟に口ききをしてやろう。
おまえさんみたいな見かけなら、店のほうも大喜びだ。きっと二つ返事で引き受ける。それとも……」
「……それとも?」
「それとも、俺のものになってみるかい?別嬪さん。笑鈴(シャオリン)のやつには、ちょっとばかし内緒でな。
花路の頭に立ってた男が、高楼街の頭にかわいがられるってのも、おもしれえだろうよ。なあ、花路の。
殺してやろうかい、俺が」
(本文75頁より)
つまりは、酔熊に自分の愛人にならないか、と誘われたという…
実際に命を奪うのではなく、飼い殺し…つまりは、精神的に殺してやろうかという、ある意味残酷な申し出です(汗)。
まあ、酔熊的には質の悪い冗談のつもりなのでしょうが、それを躱すことも出来ないどころか、
いっそそうなってもいいか、と投げやりになってる飛くんが、気の毒でなりません(涙)。
でも、ちょっといいかも♪と思ってしまった不謹慎な読者がここにひとり(笑)。
マクと飛くんのように、目に眩しい美麗カップルももちろん良いのですが、
美女と野獣というのも捨て難い!!(以前にもどこかで言ったな、こんなこと/笑)
…と、物語冒頭辺りをこのレビューでの名場面に指定してしまいましたが、
一応指定しただけであって(笑)、この話における名場面は、まだまだあるのです!
そんなところを、ちょっとずつピックアップしつつ、レビューを進めて参りませう。
先を見出せないまま、自分をどうするつもりだと問うた飛くんに、
雷英は、以前飛くんを澄んで美しい得がたい玉に譬えて師父と交わした話を打ち明けます。
拙宅の『飛雨に惑う』れびゅのラスト辺りでも引用してある会話ですね!
清らかで強く、潔く育てたつもりだと言う師父に、雷英は、
しかし、澄んで美しいだけに尚更脆いのではないか、と師父に言ったのでした。
そうして、雷英はそう見た自分の目は確かだったのかと、飛くんに問うのです。
一方、前巻ラストの騒動の折に、浅くはない傷を負ったマクもまた、
未だ落ち着かぬ市街の喧騒を避け、正妻の雪蘭(シュエラン)や、『小白龍(シャオバイロン)』とその母絲恋(スーリェン)、
先代の正妻尊夫人(スンフーレン)を先に避難させていた西湖の賓荘林(ピンチュアンリン)に移っていました。
そこでマクは……
抜け殻になっていました(驚愕)。
理由は飛くんが死んだ(と思っている)為です。
しかし、この事態は個人的に本当に驚愕ものでした。
何せ、これまで散々飛くんを「玩具」扱いしてきたマクです。
その為、興味が失せれば、簡単に飛くんを棄てかねない(汗)危うさを、私は今までマクに対して感じていたのです。
これまでの展開で、ただの玩具に対するにしては尋常でない飛くんへの執着を垣間見せてはいたものの、
正直ここに至るまで、私はマクのことを心の何処かで疑っていたようです(まあ、無理もありませんが/苦笑)。
それが飛くんの死に際して、いきなり、抜け殻状態になってくれるとは…………(汗)
…ということは何か?『縛める』で、「自分が死んだらお前は抜け殻になるだろう」みたいなことを、
マクは飛くんに向かって言ってましたが、実はそれは自分自身のことを言ってたって訳か?
…なんつうかもう、分かりにくい男だな!!(苦笑)←ファンの方、すみません…
日がな一日、あらぬ方向を眺めたまま、口を開けば「花路はどうした」しか言わないマクに、
友人のクレイや執事の万里(ワンリー)もなす術がありません(苦)。
それでも何とか道を探さなければと、白龍屋敷の面々も苦悩するのです。
しかし、白龍へやっていた物見の知らせにより、
酔熊から死んだと思い込んでいたマクが生きていると知らされた飛くんは、一気に生気を取り戻します!
理由も分からぬまま、歓喜に震える飛くんは、このとき恐らく、
自分にとってマクが何よりも大切な存在であると、意識ではなく心で悟ったのだと思います。
何で、あんな男を…というのは訊いてはいけないお約束(しかし、飛くんには面喰い疑惑があるからなあ…/笑)。
兎に角!(漢字にしてみる)
こっち(飛ファン読者)としては、飛くんが飛くんらしさを取り戻し、
再び歩き出そうとする姿に感動し、心から安堵しました(涙)。
そうして、飛くんは、完全ではないものの、どうにか動けるほどに、回復すると、まず、自分の出生を自分で確かめる為に、
母親であるという尊夫人が白龍に嫁ぐ前に、街の主として居た朱龍(チューロン)へ向かいます。
もちろん、飛くんを高楼街に運んだ雷英、猫(マオ)も同道します。
まずは、縁のある木材商、樹林房(シュリンファン)を頼り、朱龍屋敷へ入る為の助力を願うのです。
白龍での騒ぎを知り、飛くんの身を案じていた樹林房主人、松妙(ソンミャオ)は、飛くんの無事を喜び、
彼の持ち出した難しい頼みにも、
「他人のことまで背負い込みがちな花路の束ね役が、
その肩に負った荷のうちのひとつでも分けてくれるんなら、樹林房は喜んで手助けをしたい」(148頁)
と言ってくれます。
こういう台詞を相手に言わせることのできる辺り、流石飛くんという気がします。好きだなあ…♪(笑)
それから、飛くんは、樹林房の身内でもあった玲泉(リンチュアン)が実は生きていて、
今は尊夫人の傍にいることを、松妙に伝えます。
確かな事情は語らなかったものの、以前、玲泉が母親ではないかと飛くんから相談を受けた松妙は、
飛くんの出生に薄々気付いたようです。
樹林房の計らいにより、樹林房出入りの戯苑(シイユァン)の役者に紛れ込んで、朱龍屋敷に入った飛くんは、
その後、屋敷に仕える元男であった使用人である傀儡(クォイレイ)に化けて、屋敷奥へと忍び込みます。
途中出喰わした侍女らに揶揄されながらも、何とか疑われぬよう誤魔化しましたが、
今度は誤魔化しようのない数人の傀儡に出喰わしそうになってしまいます!
咄嗟に歩み出した先で、飛くんは偶然にも当代『朱龍』の夏燐(シアリン)を見付けます。
声音でそうと察した飛くんは、声を立てぬよう彼女を小刀で脅します。
ここで、夏燐が、
「……男だな、そなた。男の声なぞ、夜ごとに違う囀りを聴かされているから、こちらはいちいち覚えておられぬ。
きれいに忘れた。名乗れ」(171頁)
…と、誰何するのですが、この台詞が何とも…漢前というか何と言うか…「夜ごとに違う囀り」ってなあ(笑)。
こういう台詞を言う男性キャラなら結構いそうですが、女性キャラではなかなかいるまいよ(笑)。
流石(?)、朱龍の姐貴だね!
その頃、西湖賓荘林では、飛くんとそっくりな素顔を晒すようになった尊夫人が、魂お散歩中のマクと対面していました。
マクの状態に驚愕し、今の状態では、自分の話を聞いては貰えないかもしれないと思いつつ、
尊夫人は死んだと言われる飛くんに対して、骸も何もない、
確かに死んだということを自分の目と手で確かめた訳ではないと言い、飛くんを信じようと言います。
次いで、かつて彼女が月亮(ユエリャン)に誓ったように、どんなに越え難い隔たりでも想い合うことはできないかと言い掛けるのを、
マクが低い声音で遮ります。
「……あるものか、遠くとも近い心なぞ。この腕に触れぬ相手なぞを、信じることができるものか。
この目にも映らず、胸に抱けもしない相手を…………愛おしいなどと、想えるものか」(186頁)
…激しいですね。苛烈とも言えるほどの独占欲です(苦笑)。
結局マクは、常に飛くんの存在を確かめられるほど、傍近くに置きたかったんですね。
それが叶うならば、安らぎも穏やかさもいらない。
例え、無理矢理でも、極端に言えば、憎しみを向けられてもいい…そんな感じ。
ただただ、傍近くにと、相手を恋う言葉に、尊夫人は、マクの心が月亮に良く似ていることに気付かされます。
それでも信じなければ、と言葉を残し、尊夫人はマクの元を去るのでした。
しかし、ひとり残されたマクは、掌が傷つくのも構わずに飛くんの翡翠の耳飾りを握り締めながら、
「誰か私を殺さないか」と結構イッちゃったことを呟いてます(汗)。
・「龍は彷徨う」ベストオブイラスト。
今回のベストオブイラストは、
192頁↑で傀儡姿で朱龍屋敷に忍び込んだ飛くんと夏燐のイラストです。
最初は、飛くんのことが分からなかった夏燐ですが、その顔を見たと同時に思い出します。
「私を箱の中の紅玉と罵ってくれた『白龍』の恋童!」…って、飛くんは別に罵った訳じゃないのにね(苦笑)。
事実を言い当てられたことが、夏燐には余程悔しかったのでしょう。
そんな彼女の喉元に小刀を宛がい、飛くんは、尊夫人、先代『朱龍』のことについて問います。
脅されていても、怯むことなく微笑みながら、夏燐は、彼女の伯母でもあった先代『朱龍』が、
当時跡継ぎであった当代『黒龍』の兄と恋仲となりながら、結局マク父の先代『白龍』を選び、
『龍』の位を辞して、白龍へ嫁したことを話します。
「そう。けっきょく伯母上が選ばれたのは、大龍(ターロン)であった。
あちらがより美男であらせられたのか、はたまた寝台の上のことがよりお上手であったのか……
または、勢いある街の主であられたことに目が眩んだか。わけは、知らぬ。が、そのことがもとで、黒龍の跡継ぎさまは落胆。
病を得られたすえに、亡くなられたとか」(本文192頁)
夏燐自身も、先代のことについて詳しく聞かされていないので、その話も噂の域を出ていないようです。
セレクトしたイラストはだいたいここら辺りの場面。
傀儡の衣裳を着て、珍しく髪を結い上げてる飛くんの姿が新鮮です。
途中出喰わした侍女にもからかわれてましたが、後れ毛が項に掛かっているのが、何とも艶っぽい♪
…で、腰が細いんだな!!(悦)
飛くんの袖で隠されちゃってるので定かではないですが、華やかな美貌を誇り、
プロポーションも抜群だと思われる夏燐のウエストにも負けず劣らずの細さではないかと♪
しかし、このイラストで見ると、夏燐、幾ら年上とはいえ、飛くんと背が同じくらい…いや、若干高くも見えます(笑)。
初めて聞く話に動揺し、思わず緩めてしまった飛くんの手首を、夏燐が掴み、どさくさ紛れに押し倒そうと(?)したとき、
朱龍屋敷の古参の身内、三夫人がやってきます。
最初は、そこに傀儡がいるのを見て、夏燐がついに男に飽きて、
今宵は傀儡をお召しかと忍び笑いますが(こういうひとたちです/笑)、
尊夫人にそっくりな飛くんの容貌を見て顔色を変えます。
そんな彼女らに、飛くんは自らの名を名乗り、自分の出生のことで知っていることがあれば教えてほしいと問うのです。
そうして、飛くんは三夫人から、玉蘭(ユイラン)、今は尊夫人と呼ばれる彼の母と、師父、月亮の恋の話を聞かされるのです。
この恋の話が泣かされる…(涙)
夏の辟邪の祭礼の折、お忍びで出掛けていた玉蘭と月亮が出会い、恋に落ちます。
当初は恋の喜びに、輝くばかりに美しくなった玉蘭でしたが、ある日を境に沈み込むようになります。
そんなとき、黒龍から内々の婚儀申し入れがあり、当代『黒龍』の長子が、
当代『朱龍』である玉蘭を妻に欲しいと言ってきたのです。
そこで初めて、三夫人ら身内にも、玉蘭の恋の相手が誰であるのかが明らかになったのでした。
玉蘭と違い、月亮は彼女の身分を知った上で、それでも恋に落ち、
矢も盾も堪らず、このような無茶な婚儀申し入れをしてきたのでした。
しかし、街の主が、他所の街へ嫁ぐことなど出来よう筈もなく、玉蘭は自ら断りの書状をしたためました。
それから、大龍と呼ばれた先代『白龍』と会い、話をする機会があり、
玉蘭は四市の和の為に、自分の元に嫁す気はないかと誘われるのです。
街の主として、南里を、そして四龍島を愛していた彼女は、
その誘いを受け、『龍』の位を辞して、西に嫁ぐことを決断します。
そのとき、玉蘭は素性を明らかにしない上での輿入れとはいえ、二市の『龍』が子をなしては却って、
四市の和を乱すことになりかねないからという理由で、大龍との間に子は設けない…
つまり、関係を持たない名ばかりの妻であることを願うのです。
この願いは同時に玉蘭が真に想う月亮へ操を立てるという意味もあったようです。
その願いを、既にマクという跡継ぎのいた大龍は受け入れ、二人の婚姻は成立します。
それから、玉蘭が改めて月亮に詫びの書状を送った後、一度だけ、月亮の訪れがあり…
後二月ほどで玉蘭の懐妊が明らかとなったのです。
その子が飛くんです。
密かに三夫人が薬を勧めても、頑として受け入れなかった玉蘭は、
大龍の許しを得て、子を宿したまま、白龍へと嫁したのでした。
つまり、飛くんは確かに、玉蘭と、月亮…師父との間の子であったのです。
北と南の『龍』の血を引くある意味厄介な生まれですが、
三夫人は真に恋し恋されたふたりの間に生まれた子なのだと飛くんに言ってくれます。
この三夫人の話の中に出てくる、
黒龍からの婚儀申し入れの使いとしてやってきた黒党羽(ヘイタンユイ)の頭が伝えた月亮の言葉が涙もので。
南里主人の座が、なに。
四龍島四市の平穏無事が、なに。
街のため、島のために互いをあきらめることが、それほどたやすくできようか。
おのれを失ってまで守らねばと誓うほどに、それらのことが大事であるか。
離れ、隔てられてなお、たしかに繋がっていられる人と人とがあるものか。(219頁)
そのときの玉蘭は、「欲しい花を手に入れることが叶わなかった童女のように」泣きじゃくっていたそうです…
しかし、この月亮が伝えた台詞、『濡れ濡つ』れびゅでもピックアップしておりますが、
逃げようとする飛くんを掻き口説いた時のマクの台詞と全く同じですね。
飛くんも否応なくそのときのことを思い出し、心打たれます。
すると、それまで黙って話を聴いていた夏燐(彼女は結局飛くんの従姉ってことにもなるのね)が、
飛くんを捕らえるように、と命じます。
彼女にとって、玉蘭は自分を窮屈な『朱龍』の椅子に座らせた恨めしい相手であり、
何よりも飛くんは自分の痛いところを突いた相手であったのですから(苦笑)。
飛くんを滅びの種だと詰り、それを不夜宮(朱龍屋敷)に閉じ込めれば四龍島の和とやらにも貢献できるだろうと言い、
飛くんに自分のものになるよう迫ります。
…何だかんだと文句付けつつ、結局やっぱり夏燐は飛くんのことが好きなようです(笑)。
そこから逃れた飛くんは、三夫人の助けもあって、何とか屋敷を脱出することが叶います。
助けをくれた樹林房主人に、礼と共に、知り得た全てのことを打ち明けてから、飛くんは今度は白龍へと向かうのです。
マクへ会いに。
一方、師父、月亮は白龍の騒動を起こした後、黒龍屋敷へと戻ってきます。
喜びながらもどこか不安な面持ちで迎える身内の中で、屈託なく喜んでいるように見えるのは、
弟である当代『黒龍』と、黒党羽老頭だけのようです。
しかし、歩みだしたところで月亮は苦しげな咳をし出し、しきりに涙を流していました。
飛くんが死んだと知らされたときにも、彼はこうして涙を流していたそうで…(雷英談)
滅ぼす為に育てたと言いつつ、やはり、月亮は失われた飛くんの命を惜しみ、悲しんでいる様子です。
何だか、病も深そうな感じだし、月亮のブレーンとして散々白龍を乱してくれた蜂焔(フォンイェン)の様子も何だか怪しいし(汗)。
…何かが起こりそうです。
青龍では、あっちの世界へ行ってしまった当代『青龍』麗杏(リーシン)が、
今度は本土伍家の雇われ刺客となった天狼(ティエンラン)に攫われるという事件が起こります!
そして、雷英、猫と共に、西湖賓荘林にやってきた飛くんは、見張りの目を掻い潜り、ついに!
マクと対面します。
眠っていたらしきマクは、飛くんの姿を捉えると、その頬に僅かに触れてから、ふいに、飛くんの身体を強く掻き抱きます。
……そこで、続く。
こんなところで終わりかヨ!!
毎度ながら、真堂さんは読者を焦らしてくださいます(笑)。
そういうことで、『龍は彷徨う』れびゅもここまで。
…何だか、いつもより一層長々と書き綴ってしまったような気がしますけど(汗)、
最後までお付き合い下さいました方、いらっしゃいましたら有難う御座いました(平伏)、本当に!!(笑)
次回も宜しくお付き合いくださいましたら幸いです。
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