龍は濡れ濡つ

四龍(スーロン)島シリーズ怒涛の十七冊目、『龍は濡れ濡つ』。
どうぞ、「ぬれそぼつ」とお読みください。
ちなみに通称は『龍は濡れ濡れ』(イラスト担当浅見さん命名/笑)。
通称になると、一気にイヤラシイ響きになる(笑)今回のタイトル。
内容の方もかなりキワドクなっているのではないかと…(笑)
表紙は、タイトルどおり濡れ濡った水も滴る姫♪な飛(フェイ)くんと、
背後の水(?)に透けるようなマクのツーショットイラストです!
飛くんの濡れ髪や紅いくちびるや濡れた袍(パオ)?が張り付いて透けそうな肌が艶っぽくてくらくらきちゃいます!!
マクは何だか背後霊みたいな…(ヒデエ)もとい、ちょっと現実感のない儚げな(…ぷっ)雰囲気に描かれてます。
…しつこいようですが、私は飛くんファンです(笑)。

領主である『白龍(バイロン)』が、白昼どうどう花路(ホワルー)の頭(トウ)を拉致したことで、街は騒然となった。
屋敷に真意をただしても煮え切らない返事ばかりで、花路の中でも『白龍』への不信が渦巻き始める。
一方、本土外人居留区へ連れていかれた飛は、ついに己の出自の証拠を突きつけられた。
が、マクシミリアンの少年時代の深い心の闇に触れ、彼を置いて逃げることにしだいにためらいを覚え始めるが……。

                                                      (文庫折り返し部分より)

「屋敷に真意をただしても煮え切らない返事ばかり」ってそりゃそうだろう。
何しろ、飛くんを拉致ったのは、マクの超個人的な理由によるものだったのですから!(苦笑)
さて、飛くんがマクに連れて行かれた本土外人居留区は、かつては大龍(ターロン)の愛妾が住まい、
マクが四龍島へ渡るまで暮らしていた場所でもあります。
本土へ渡る途中の船の上で気が付いた飛くんに、マクは「わたしの父が愛妾を閉じ込めた灰色の館に、
おまえを同じように繋いでやる」と言います、うわぁお(汗)。
それでも、離れようとする飛くんを逃すまいと、師父がどうなってもいいのかと脅迫までします。
マク、未だかつてないほど見境なし!!(苦笑)
ま…これがマクにも余裕がない表れなのかな、という気もします。
雨の中、今もマクの養育係であった王老人(ワンラオレン)を始めとした使用人が住まう館へ、飛くんを連れて行ったマク。
そこでホントに飛くんをお母さんの居室へ入れてしまいます(汗)。
そのとき、王老人の前で、わざと飛くんの顔を濡れた髪で隠して、
尊夫人(スンフーレン)の容貌を知っている王老人に飛くんの正体をすぐに悟らせないようにしたのは、
自分のやりたいことをする前に、大龍の正妻そっくりの飛くんの容貌に対して、
王老人に何か一言でも言われるのが、嫌だったのかもしれません。
マクが本土に来てやりたいこと…それは、
名目上は四龍島を含めたこの辺り一帯を治める伍(ウー)家の主が住まう賓荘(ピンチュアン:別荘)を訪ねることでした。

一方、主の突然の振る舞いに戸惑う白龍屋敷では、
執事の万里(ワンリー)が事の真偽をただしに来た花路の大兄たちを、何とか一旦は帰らせます。
しかし、この先どうするか正直困っていた万里は、
マクの長年の友人で居候でもあるクレイに、最近の飛くんに対するマクの仕打ちの意味を訊ねます。
マクから、尊夫人が飛くんと似ているのだと聞かされていたクレイは、薄々事情を察していますが、
あまりにも重大なことである為に(?)そのことを万里に告げることを控えるのでした。
…今思えば、ここの辺りで、クレイが万里に事実の一端を教えていさえすれば、
後に起こる街の騒動があそこまで大きくならずに済んだのではないかとも思えるのですが…違いますかね?(苦笑)

そして、白龍に潜む師父を筆頭とした黒龍(ヘイロン)悪巧み組は、
マクと飛くん不在の間に着々と白龍を陥れる罠を張り巡らしていきます(汗)。
師父は飛くんが連れ去られた事情を説明しに来た羅漢(ルオハン)に、わざと動揺した振りをして見せ、
飛くんの身の上に関して、話したいことがあると持ち出します。
そのときは師父の具合が悪く(?)、羅漢は意味深な言葉をいぶかしみながら、茶房を後にしました。
次いで、師父は雷英(リーイン)を通じて、夜市(イエシ)の菜館(ツァイカン)を営む蜂大人(フォンターレン)、
実は黒龍の富農のひとつである毛(マオ)家の当主である彼に、白龍屋敷と花路との仲違いの噂を街中に流させるよう命じるのです。
ちょうど街は嵐。この嵐に紛れて、全ての算段を整えるようにと…うう…師父のバカバカ…(泣)

・「龍は濡れ濡つ」ベストオブイラスト。

うう〜ん、今回の一色イラストには飛くんが少ないんですよねぇ…(飛くんがいるかいないかが基準になっている/笑)
そんな数少ないイラストから、今回セレクトしたのは、

89頁のイラストで御座います。

マク母の居室に入れられた飛くんは、濡れた服を着替えもせず、
運ばれた食事にも手を付けないで、ただ椅子に腰掛けていました。
そこにマクがやってきて…

「着替えもせずに濡れた服のまま。食事にも少しも手をつけない。
世話のやける強情な鳥を、無理やり籠に入れたような気分だぞ、花路。
いいようにされるくらいなら舌を噛んで死にますと、嫌々をする生娘でもあるまい。
それともわたしの母の亡霊に出くわして、恐ろしさのあまりに手足も動かせずにいるか」
手燭を卓子の上に置いて、かわりに取り上げるのが着替えの袍だ。
それを手に間近まで歩んでくると、こちらの顎を、ぐ、ととらえ、
「脱げ」

                                                    (本文86頁)

場面としてはこんな感じ。
引用文を続きが気になるところで技と切ってみたり(笑)。
今回のイラストは、飛くん及びマクの横顔が美しいなぁ!ということで、セレクトしました。
以前にもどこかで言いましたが、浅見さんの描かれる横顔が好きなのですよ♪
…とまあ、場面がどうこう言うより、完全に好みで選んではみましたが、場面的にも想像すると結構アヤしい感じ?(笑)
この後、マクはまた師父のことで飛くんを脅して、目のまえで着替えさせ、次には葡萄を食べさせたりなんかしちゃいます。
「あんたは、俺と人形遊びまがいのことをしたくて、わざわざ眠り薬まで飲ませてさらって来たのか」と、
飛くんは悪態をつきますが(に、人形遊び!!←反応すな)、
「そんなところだ」とマク、一向堪えない様子です。
そうして、飛くんに一粒ずつ葡萄を食べさせつつ、マクはこの館に暮らしていた頃の話をします。
少年マクは、男(!)、女、酒、得体の知れない薬、阿片など手当たり次第悪い遊びに手を染めていたようですよ!
それを「あんたらしい」と詰る飛くんに、マクは自分のことを何も知りはしないくせに嘘をつくなと冷たく言うのです。(90頁)

マクからの先触れを受け取った伍家の賓荘、清鳳庁(チンフォンティン)では、何事かを企むらしき伍家当主、天鳳(ティエンフォン)が登場。
一応、三十代半ばの美男らしい…(笑)私の好みじゃありませんが。←アンタの好みはうるさいでしょ!(苦笑)
更に、思いがけないキャラも再登場。
『波濤を呼ぶ』にて、玲泉(リンチュアン)と共に海牙(ハイヤ)の崖下の海へ転落した元青龍(チンロン)の刺客、天狼(ティエンラン)。
玲泉の話から生きているだろうとは思っていましたが、なんともしぶとい(苦笑)。
しかも、今度は伍家当主の子飼いになっているとは!
そんなしぶとい君に、この言葉を捧げよう!
「憎まれっ子、世に憚る」(笑)

さて、そんな疑惑たっぷりの伍家当主が住まう清鳳庁へマクに連れて行かれた飛くん。
天鳳に、表向きとはいえ、恭しく腰を折る珍しいマクの姿に内心驚いたりします。うん、確かに珍しい(笑)。
しかし、そこでマクが天鳳に申し出た用件…居留区に住まう王老人の籍を本土から四龍島に移したいという…に、
もしや、マクは自分の出生の秘密に気付いているかもしれないと、飛くんの不審感は募ります。
用件に快諾を得たマクは、戸籍庫へ赴き、そこで、さも今思い付いたと言うように、
知り合いの男の籍を探してみたいと言い出します。
そうして、マクが探し当てたのは、言わずもがな、飛くんの戸籍でした。
そこには、飛くん自身も知らなかった本名が記されていました。

「飛蘭(フェイラン)」と。

余談めいた話になりますが、ここの件を読んで、ふと私の脳裏を過ぎったのは、
青龍篇で、マクが雪蘭(シュエラン)を嫁に迎えると話したときのクレイの言葉です。
確か、四龍島において「蘭」は高貴な花とされるので、その名を持てるのは、『龍』に繋がる血筋のだけだという話…
…で、明らかになった飛くんの本名は「飛蘭」なあんだ、やっぱり飛くんは高貴な姫君だったんだねえ…♪♪
…と、危うい展開にはらはらする心の片隅で大喜びしていたのであります(笑)。
ま、本文では、尊夫人の幼名、玉蘭(ユイラン)に繋がるとだけ書かれていますがね。

・「龍は濡れ濡つ」名場面。

今回は、幅があります。
頁数で言うなら、182頁〜196頁まで。

め、目隠し×××!!

…いや、お約束どおり未遂なんですが(苦笑)、とても未遂とは思えないキワドサです、ああッ、動機息切れが…!!(笑)
ちなみにこの場面が含まれている章題は、「淫雨に溺る」。す、すごい…(笑)

清鳳庁から戻った後、強まる不審感に囚われる飛くん。
そのとき、着替えを持って現れた王老人に、初めて飛くんは己の顔を晒します。
王老人の驚きように、飛くんは尊夫人と自分の顔立ちが似ていることに気付かされます。
そして、王老人と入れ替わりに、マクがやってきて、長い名場面シーンに突入(笑)。
飛くんを寝台に押し倒し(!)、解いた飛くんの帯で目を塞ぎ、どうしても逃げると言うのなら、ここに繋いで、
かつて手当たり次第に貪って覚えた悦楽の味を注ぎ込んでやるとマクは言います。
その愉楽の果ての虚しさをおまえは知らないだろうと。
求めようと思ったことすらないだろうと。

「力ずくでかき抱いても、おのれのものにはならず……
宙を漂い、闇に堕ちるような心地を味わい尽くしても、なにひとつ満たされず……それどころか、餓えていくばかりで…………
四肢の先から腐っていく。倦み、飽いて、それでも足りずに、目にする熟れた果実を片端から口に含み……
やがて、知らず知らずのうちに喉も胸もふさがれていく。それでもなお……
甘くても、苦くても、それが死に至る毒でもかまわない……
なにかを噛まなければいたたまれないほどに、その胸は餓えたことがあったか、花路」

                                                 (本文188頁より)

…何と言うか、飛くんファンとしては、あまりマクの弁護的発言はしたくないんですが(苦笑)、
マクの深い孤独と渇望が窺える台詞です…
愛でも憎悪でも、その種類はどうでもよくて、ただひたすら自分に対してのみ向けられる強い感情…
そういうのを求めてるのかなあ。
または、そういう強い感情を交し合うことのできる存在でしょうか。
父親は仕事(?)に忙しく顔を合わせるどころか殆ど会いもしない、母親は逢いに来ない父親を慕うあまり、
半ば気が触れたようになって、同じ館内にいる息子を省みることもない…
そんな両親じゃあ、マクが↑のようなことを渇望するのも分かる気がします(汗)。
問題ありな性格になっちゃうのも仕方ないかもね(苦笑)。
そんなことを読者(私)に考えさせつつ、己の心の闇の一端を晒したマクは
「そもそも、わたしはおまえのなにをも知らない。おまえは、わたしのなにをも知りはしない」と、
言った上で飛くんに改めて問い掛けます。(191頁)

「おまえは……わたしの、なんだ」

と。
飛くんは、問いに応えられずに、ただ塞がれた目を瞠ります。
そんな飛くんの肩を強く抱き、マクは逃げるくらいならば自分を追い落としてみせろと詰ります。
以降長く本文より引用(↓)。

「追い落としてみろ、花路。でなければ、ここで応えろ。『白龍』の椅子が、なにほどのものだ。
花路の頭の立場が、なんだという。大龍の血筋?……四龍島の、和だと?それらにいったい、どれほどの意味がある……!」

四龍島西の街の主の座。
色街花路の束ね役の名。
英邁と噂に高かった先代西里主人の血。
幾百年の平穏を守ってきた、神龍に守護される島の無事。

おのれを失ってまで守らねばと誓うほどに、それらのことが大事かと。
容赦なく詰る声音のうちに、まるでかき口説くような熱さがある。
左の耳朶に、その熱さが痛い。
痛くて、仕方がない。

愚かだとは思わないか。
なぜ、すすんで手放すのだ。
離れ、隔てられてもなお、たしかに繋がっていられると思うのか。
遠くとも近い心なぞが、あるものか。
欲しければ引き寄せればいい。
その肉を裂き、血をこぼしてでも、おのれの腕のなかに力ずくで抱けばいいだろう。

「いいか、この目は……おまえしか見ていない。よけいなものなぞ、ひとつも映してはいない。
足もとになにを踏みしだき、手指がなにを傷つけているかなぞ、いちいち気にかけていはしない。よく聞いておけ、花路。
逃げるというのなら、おまえの逃げ場所すべてを、奪ってやる。奪い去り、握り壊して…………行き場をなくしてやる」

すべての行き場を失って、この腕のなかに戻るしかないのだとあきらめがつくように。

                                                (本文193頁〜195頁)

…いやあ、マクってば、すごい情熱的…っていうか飛くんへの執着レベルが半端じゃないですね(苦笑)。
しかし、「遠くとも〜」という恋愛(?)観は、絲恋(スーリェン)など他キャラでも語られていて、
筆者の真堂さんご自身のお考えなのかなあと思われます。
恋愛ものでよく言うところの「離れても心はいつもあなたの傍にあるわ」、
という乙女チックロマネスク(謎)な思考形態は真っ向から否定されてますね!
しかし、「離れていては意味がない」とひたすら相手の傍らにいることを願う思いの激しさ、
熱さは乙女チックロマネスクを遥かに超えるスーパーネオロマネスクだと思うのです!!(意味不明だぞ)
…が、そこまでアツク掻き口説きながら、マクは明日、四龍島に戻ることを告げ、
後は好きにしろと言って、飛くんをさっさと解放するのです。

一方、白龍では師父の狙い通り、白龍屋敷と花路との仲違いの噂が着実に広まっておりました…(苦)
東州茶房でも客の素封家たちがその噂を口にしているのへ、師父はそれとなく、
お屋敷ではなく花路の肩を持つような発言をし、それに素封家たちは上手く乗せられてしまいます。
客が去った後、マクが飛くんを本土に連れて行った目的を察していた師父は、
飛くんの戸籍簿に記した名は、かつて大切に想った人の名前から一字を貰ったのだと雷英に教えます。
飛くんは、愛しかったひとと、それを奪い去った仇とのあいだに生まれた子なのだと。
それでもなお愛しく、憎くて仕方のない養い子なのだと、師父は言います。

「あの子を海のなかから拾い上げたことで、わたしは、
陽の光のいっさい届かない暗い道へと足を踏み入れてしまったのかもしれません。
あの子を、少しも影のない場所で育てようとしたのは、そんな愚かしい理由のせいでしょうか。
このごろになって……自分のことが、自分でわからないですよ。嗤いますか……雷英」

                                                   (本文210頁)

師父はこんな狂おしくも複雑な気持ちを抱えながら、飛くんに接していたのですね〜…
当初はとっても優しい養父だなあ、だから、飛くんはこんないい子に育ったんだね!有難う!!(笑)
…と思っておりましたが、ひとの内面とは分からないものです…怖いなあ…哀しいなあ……(泣)

そして、黒龍ではお屋敷に黒党羽(ヘイタンユイ)の頭が配下と共に乗り込んで、
師父の間もなくの帰還に合わせ、『黒龍』に街の主の椅子から降りるよう要求します。
それに、『黒龍』冬眠(トンミェン)はおっとり笑顔で頷くのです。

そして、本土外人居留区では、マクがとうに本土への船に乗った後に、いろいろな意味で寝乱れた(笑)飛くんは目覚めました。
これからどうするか、内心では依然として悩みながら、飛くんはマクの居室に足を踏み入れます。
ちょうどそのとき部屋にやってきた王老人にも好きなようにするといいと言われ、
この居室でもマクの抱えていた冷え冷えとした虚しさを感じた飛くんは迷います。
逃げるなら、飛くんの戸籍のあった師父の郷里だという桃里村(とうりそん)に行こうかとふと思いつき、
王老人にその村のことを尋ねますが、そのとき、マクが師父から聞かされたという桃の花が美しい村里だとの話が、
事実と違うことを知らされます。
その村は桃の花がけして咲かないからこそ、「桃里村」と名付けられたのだというのです。
偽りを口にしたのは誰か。
しかし、その小さな疑いは、机の上に置かれた触書の草案の内容を目にした途端に、飛くんの頭からすっ飛んでしまいます。

なんと、その触書の草案には、花路退去の命令が書かれていたのです!!

驚愕しながら、逃げ場所の全てを奪ってやると言ったマクの言葉を、ありありと思い出す飛くん。
考える暇もなく、飛くんは王老人に、四龍島行きの船の手配を頼んでいたのでした。

ああもう、色々と切羽詰ってきております!!
飛くんファンにとっては胸痛む一方のこの展開。だからこそ、先が気になって止められない!
…というジレンマと共に、拝読していましたね、この時期は(笑)。
次回も当然、波乱万丈、飛くんはどんどん追い詰められていきます。
ひとまず、『龍は濡れ濡つ』れびゅはここでおしまい。
お付き合い有難う御座いました〜♪

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