龍は飛雨に惑う

四龍(スーロン)島シリーズ十四作目は、『龍は飛雨(ひう)に惑う』。
雨に濡れながら、頬に触れている手の持ち主(多分、マク)を見上げる飛(フェイ)くんの表紙イラストが目印でっす♪
どこか不安げで儚げな飛くんの表情が好い!しかも婀娜な濡れ姿ですよ〜〜っ、むふふ♪(怪)


『青龍(チンロン)』の後見についての承諾を得るため、マクシミリアンは黒龍(ヘイロン)へ使いを出す。
が、先触れの万里(ワンリー)が何者かに襲われ、拉致されてしまった。
白龍(バイロン)屋敷から、独断での万里の救出を禁じられた飛は、
マクシミリアンへの反発心から、あえて禁を破り黒龍に乗り込む。
屋敷が勢力を失い、黒党羽(ヘイタンユイ)という猛者集団が悪事をくりかえす黒龍市では、ある密かな企みが進行していた…。
四龍島シリーズ第13弾!

                                                      (文庫折り返し部分より)

常に無表情で淡々としているため見過ごしがちですが(苦笑)、意外に災難に遭っている白龍屋敷執事、万里大人(ターレン)。
今回は、先触れの使者として出向いた黒龍で、思わぬ災難を拾ってしまいます。
供に連れていたふたりの屋敷身内は殺され、用心棒として付いてきていた元花路(ホワルー)、
小虎(シャオフー)は瀕死の重傷を負って戻ってきます。
仲間であった小虎を傷付け、恩ある万里も行方知れずと来ては、飛くんも黙っているわけには参りません。
しかし、そんな飛くんに、マクは動くなと命じます。
それでも、飛くんは動いちゃうわけなんですが、↑では「マクへの反発心から」な〜んて、
あっさり書いてますが、飛くんの心境はもっと複雑なんですよねえ……(溜め息)
何せ、自分の衝撃の出生の秘密に気付いたばかりの飛くんです。
マクへの敵意とも、母であろう尊夫人(スンフーレン)への疑念ともつかない混沌とした気持ちを整理し切れぬまま、
飛くんは万里を救いに走り出すのです。
…でもね、何の悩みもない状態でも飛くんは、結局は同じ行動をとったと思うの。
ただ、その行動に向かう気持ちがポジティブかネガティブかだけの違いなんじゃないかと。
まあ、それこそが大きな違いだとも言え、飛くんが時折醸し出す危うさに、
こちらは、はらはらどきどきうふふ♪(?)してしまうのですが。
それでも、これだけ深い悩みに捕らわれていても、
歪んだ行動をしない飛くんが私はすごいと思うのです(飛ファンの戯言として聞き流してやってください/苦笑)。

・「龍は飛雨に惑う」名場面。

色々とピックアップしたい場面はあるものの、ここ最近ないがしろにしがちだった(笑)
マクと飛くんのシーンにしようかと思います。
黒龍で瀕死の傷を負った小虎が白龍屋敷に戻ってきた後、腕利きと噂の花路の医生(イーシェン)が密かに呼ばれます。
その医生からの知らせで、傷を負ったのが小虎だと知った飛くんは、弟子を装って屋敷に戻る医生と共に屋敷に向かいます。
やっと正気付いた小虎から、黒龍で襲われた事情を聞いていたとき、
飛くんより遅れて朱龍(チューロン)から戻ってきたマクがやってきます。
逃げ出したい気持ちを抑えて、その場に踏みとどまった飛くんに、マクはすぐに気付き、
怪我人から聞いた事情を聞かせてもらうと飛くんを無理やり、庭に連れ出すのです。
ここの件はそのまま引用すると長いので、今回は台詞の抜き出しのみでレビューしてみます。
場所としては、

「触れるな離せと抗うわりには、わたしのそば近くへ寄ってくることが多いな、花路」(本文93頁)

から、

「よそ見をするな、翡翠」(本文101頁)

辺りまで。
ちなみに、↑はふたつともマクの台詞です。また、花路=翡翠=飛くんですので♪
話をしている最中にも、マクと目を合わそうとしない飛くんに、
マクは幾度も「目を背けるな」、「よそ見をするな」と言います。
「お前がよそ見をしていればすぐに分かる」とも。
まあ、飛くんのことしか見てないからね!(笑)
飛くんが、つい漏らしてしまった「いっそ忘れてくればよかったか」という台詞にも鋭く切り込んできますが、
飛くんにしては、素直に話せるわけがありせん!(痛)
庭の木に押さえ付けられた状態で、飛くんは後退ろうとして、木の根に躓き、
掴まろうとした潅木の枝で指を傷付けてしまいます。
ここで飛くんの身体を支えたマクが傷付いた指を舐めるんですが…
その場面を想像すると何ともいやらしい…(笑)
ついには、無理やり土の上に押し倒して、飛くんを問い詰める始末。をいをい〜っ!(笑)
そこで、自棄になっちゃった飛くんが、「やれるものなら、やってみろ」とか更に煽るようなことを言うし。

「新妻を扱うように俺を扱ったなら、引きずり出したい隠し事がこの口からもれると思うのか」(本文99頁)

…ですよ、飛くんってば。
でも、笑いながらそう言う飛くんが痛々しいのです(泣)。
そして、マクはますます混乱すると(苦笑)。
しかし、この先はクレイがマクを呼びに来たことによって、中断されます。←四龍島恒例の「THE・寸止め」(笑)
舌打ちしながら、マクが言い捨てた台詞が↑の「よそ見をするな、翡翠」でした。

小虎の話から、万里を拉致したのが黒党羽と名乗る男たちであることが分かった飛くん。
それ以前に、飛くんは、花路を訊ねてきてくれた高楼街(カオロウチエ)の頭(トウ)、酔熊(ツォイション)から、
黒党羽と黒龍屋敷との間が今おかしいとの情報を得ていました。
この黒党羽、もとは『黒龍』の傍系が集まって街と『黒龍』のために働く、
謂わば、白龍の花路のような百余の猛者集団だったとのこと。
それが、最近では、乱暴だけがとりえのごろつきのような者も数に加え、三百余の大集団と化しているそうで、
その下っ端連中が街で数々の悪さを働いているのだそうです。
それを本来抑えるべき、黒龍屋敷はどうかというと、
当代『黒龍』は侍者(じしゃ)が付いていないと筆も持てない腑抜けだという噂。
それに愛想を付かして反発する黒党羽の横暴を屋敷も抑えられないよう。
また、万里を掴まえたのは、悪さを働く下っ端連中でしたが、
黒党羽、正確には彼らを束ねる頭が白龍に何か含むことがあるのは事実のようです。

そんな不穏な黒龍市に、飛くんは、花路の仲間で右腕と頼む羅漢(ルオハン)と共に行くことにしますが、
白龍市と黒龍市の境にある龍門は白龍屋敷に抑えられています。
陸から行った方が早いが、海から行った方がいいかと飛くんが考えあぐねていたとき、
師父(シーフ)と雷英(リーイン)に偶然(?)黒龍行きを知られてしまいます。
白龍屋敷にはことを伏せて動きたいという飛くんの意を汲み取った師父は、
夜市(イエシ)で菜館(ツァイカン)を営む主人を飛くんに紹介します。
その蜂(フォン)大人が商いのために、月に一度黒龍へ赴くのが、ちょうど次の日だということで、
飛くんと羅漢はその一行に紛れて黒龍入りを果たすのでした。

・「龍は飛雨に惑う」ベストオブイラスト。

此度のセレクトはラストのイラストです。

275頁のイラスト♪

今回のベストオブイラストは場面としては最後の最後なので、そこに至るまでの話の流れを追いましょう。

黒龍入りをした飛くんと羅漢は、小虎を襲った男たちが口にしていたという元(ユァン)家を目指します。
黒龍では有名な富農のひとつだという元家の屋敷の前で、
ふたりは手に得物を持った男たちが屋敷の塀を越えていくのを目撃します。
その後に聞こえた女の悲鳴にふたりは、屋敷の者を助けに乗り込んでいくのです。
中で、家の跡取りらしき少年と彼を逃がそうとする家人の老人が言い争っているのを見付け、
そこに飛び掛っていった賊を退けた飛くんは、彼らに逃げるように言います。
それに、自分はこの家の当主だから、ときっぱりと断りを入れた少年に、飛くんはそれならば得物を握れと言うのです。
そのとき、家の用心棒らしき若者が戻ってきて、賊たちは散り散りになって逃げていきますが、
飛くんたちを賊と思い込んだ若者は飛くんに飛び掛ってきます。
あわや乱闘になるかというときに、元家の幼い当主、梨樹(リーシュ)によって場は収められるのです。
改めて、客として迎えられた屋敷内での話で、用心棒風の猫(マオ)と呼ばれる若者が、
元家の敷地内で白龍屋敷の使いを襲った黒党羽たちを追い払い、瀕死だった小虎の傷の手当をしてくれたことが分かります。
運び込まれた小屋で正気付いた小虎がそこから抜け出し、俥宿まで行って、白龍行きの俥に乗ったということらしいっすね。
自分たちが、花路であることを名乗った上で、万里を助けるため、
黒党羽の根城に乗り込むという飛くんに、梨樹が道案内を申し出ます。
猫はとんでもないと反対しますが、梨樹の決意は翻りません。
彼は家人に守られるばかりで、役に立たない自分を気に病んでいました。
そんな彼に、初めて得物を握るよう言ってくれた飛くんに、梨樹はころりと参ってしまうのです(笑)。
それで、健気にも飛くんの役に立ちたいとこう申し出てくれたんですね。

「一度だけお会いしたことのある冬眠(トンミェン:当代『黒龍』の渾名)さまも美男でいらっしゃったけど、
あなたのほうがもっと綺麗です」(本文201頁)
「なんだか、初恋をしたような気分だ」(本文260頁)

…と、飛くんに言ったりする辺り、かなりのめろめろっぷりです。
さすが天然人たらし!!(笑)
こうして、飛くんは北の街、黒龍でもファンクラブ会員を増やしたのでした(笑)。

一方、マクは事情を知った黒龍屋敷が慌てて出した使いをこっぴどくやり込めます。
そうして、黒龍の不手際を責め、青龍の後見の件を認めさせやすい状況を作り上げた上で、
改めてマク自ら、黒龍へと出立するのです。うむ、抜け目ない(笑)。

マクが黒龍の使いを帰した後、初めて尊夫人が姿を現します。
ここ最近の屋敷の慌しさを気に掛けて、出てきたようです。
しかし、尊夫人は喪の衣装を纏い、頭から薄布を被って顔を隠した姿のままなので、
飛くんと似ているらしい容貌は明らかとなっておりません。
その尊夫人はくれぐれも黒龍とは争うなと、以前使いを立てて伝えたことをもう一度直接伝えます。
それが島の平穏の為になるからと。
ここまで来ると、飛くんの実母であるらしい尊夫人と、黒龍との間には何がしかの関わりがあったことが察せられますね。
尊夫人は、先代『朱龍』であったひとなので、朱龍と黒龍との間に、かもしれません。

飛くんは、降り出した夜の雨の中、羅漢を元家に残し、梨樹を何とか引き止めた猫の道案内によって、
黒党羽の根城である龍巣(ロンチャオ)という山にある廟堂へ向かっていました。
この元家に世話になっている猫、実は黒党羽で、廟主(ミャオシュ)と呼ばれるひとつのグループを纏めるリーダーであるのですが、
ここ最近の黒党羽の荒れように愛想を尽かし、廟堂から足が遠のいていたのです。
道すがら山廟の造りと共に、そんな事情を聞きながら、飛くんは、怯まずにひとりで根城に乗り込みます。
密かに万里の捕らえられている廟を探し出し、連れ出すつもりでしたが、
そこで、待っていたような黒党羽の古株の猛者に囲まれ、捕らわれてしまいます。
そこに現れたのが、黒党羽の頭。
老頭(ラオトウ)と呼ばれる彼は、逞しい体躯で顔の下半分を覆う髭が立派な(笑)壮年の男であります。
相手は何故か、飛くんが花路の頭であることを知っていました。
飛くんが尋ねても、相手は神龍(シェンロン)のお告げだとはぐらかすばかり。
山門からの石段を上がった正面にある黒党羽の廟堂、天巣殿(ティエンチャオティエン)に引っ立てられた飛くんは、
そこで、万里の無事を確認しますが、黒党羽の頭と手合わせをすることに。
手強い黒党羽の頭を相手に、飛くんは奮戦しますが、敗れてしまいます。
相手は平手ひとつで飛くんの身体を床に叩き付ける馬鹿力だもん、無理ないよ…(汗)
実はもうひとつ別の理由もあるのですが、まあそれは後に分かることで。
そのまま、床にうつ伏せに押さえ付けられた飛くんは、
黒党羽の頭が得意とする四肢の動きを自在に封じるという黒針という技によって、
一時的に視力を封じられてしまいます。
そして今度は…服を破られ、剥かれてしまうのです!
ぎゃ〜、何すんの、この親爺ィ!!(怒)
更に、背中の神龍の刺青を眺めながら、「もう少し肌に血の色がさしているかと思えば」と、
黒党羽の頭は不満げに言って、飛くんの脇腹を撫で上げたりします…っ!(しかもここにイラストあり)
更に更に、「いっそおもての連中のなかに、この姿で放り込むか」とまで!
ぬぬぬ、数々の飛くんに対する無礼な振る舞い、侮蔑の言葉、許すまじ!!(怒)
…そんな理由で、黒党羽の頭は、一部の読者から、
「ヘンタイユイの頭」と呼ばれることになります(ホントは「ヘイタンユイ」/苦笑)。
暗闇の中、理不尽な扱いを受けて、マクを思い出してしまった飛くんは、湧き上がる憤り(?)に身を染めます。
…この辺りの描写もな〜んか、淫靡だよなあ…(笑)
すると、黒党羽の頭の驚きの声が上がり、飛くんは、訳の分からない大笑を浴びせ掛けられるのです。

「よくぞここまで来た……むしろ、礼を言う。報いを受けるときは近いぞ。楽しみにしているがいい」(本文252頁)

その台詞の理由を捉えられぬまま、飛くんは万里と共に解放されました。
帰りは万里に付き添われて、何とか元家に戻った飛くんは、羅漢に一足先に白龍へ戻ってもらい、
自分は万里と共に市街へ出て、黒龍へとやってくる白龍の使いを待つことにします。
黒龍市街で俥から降りた飛くんを茶館の二階から見下ろす男がひとり。
それは、飛くんの黒龍行きを手助けした蜂大人でした。
彼はそのときやってきた使いの男から、黒党羽の根城で飛くんが遭った災難の報告を受けていました。
この蜂大人、確実に黒党羽の頭と繋がっている模様です(不穏…)。
市街に入る辺りから、ぼんやりと目に明りが映るようになってはきましたが、まだはっきりと目が見えない飛くん。
それでも、持ち前の勘の鋭さで、自分に向けられる視線にすぐ気付きますが、
聡い相手は見付かる前に茶館の二階から姿を消します。

使いを待つ間、万里に「あなたに(マクの)龍玉になれと言ったのは間違いだったのか」と問われ、応えに惑う飛くん。
そのとき、万里が白龍屋敷の俥を見付けます。
目の見えない今の自分では、遅くなるからと、万里を先に行かせた飛くんは、道の中ほどで立ち尽くします。
長く降り続いていた雨が、やみかける気配を見せ…
そこで、や〜〜っと(笑)、ベストオブイラストの場面になるのです。

あれが白龍屋敷の俥かと目をほそめて見定めようとするうしろから、どん、といきなり突き当たられた。
濡れた石畳に膝をつく。
雨がやんだぞと喜ぶ声が、あちこちから。
こめかみに鋭い痛みをおぼえて、思わず息を呑んだそのとき、
「どこを見ている」
低い美声を耳に聴いた。
目のまえに、気配。
まさか、と顔を上げるとちゅうで、冷たい指が頬に触れた。
「マ……クシ……ミリアン」
揺らぐまなざしをゆっくりと上げる。
とたんに、色とかたちとが視界にあふれだした。

                                              (本文274頁〜276頁より)

筆者の真堂さんによると、"目覚めればそこに王子様が"状態の飛くんだそうです(あとがき参照/笑)。
地面に跪いた格好で、どこか呆然とマクを見上げる飛くんの表情が頼りなげでぎゅっとしたくなります♪
そんな飛くんの頬に触れながら、厳しい眼差しで見下ろすマク。
そう言えば、このツーショットをベストオブイラストに選んだのは久々かも(笑)。
隠れ注目ポイントは、飛くんの細腰です♪
自分は龍玉にはなれない、では何になれるのかと、ひたすら惑う飛くんは、
マクに向かって、「訊いてもいいか」と問いを発してしまいます。

一方、白龍東州茶房では、飛くんの帰りを待つ師父と雷英が怪しい会話を交わしています。

「やさしい子ですから……どこへ赴いても必ず助けを得られるでしょう。
澄んで美しい得がたい玉を、泥に汚れたまま放っておくものはありません。清らかで、強くて、潔い……
わたしは、そんなふうに育てたつもりです」
「……ですが、脆い」
「脆く、見えますか」
「ええ。澄んで美しいだけに、なおさら」
真面目な声音での雷英の言葉に、東州茶房主人は笑むだけでもう応えない。

                                                 (本文280頁より)

な、何、こいつら…この意味深な会話は何なの?!
しかも、師父、あんた、目が見えとるやないけ〜〜っ!!(驚)
飛くんが誰よりも信頼し、感謝しているふたりの不審な言動に不安を募らせつつ…
そして、飛くんがマクと異母兄弟であることを、当人の前でぽろっと零してしまうのか(可能性としては低いですが)、
など気になる問題を残したまま、ストーリーは次巻へと。
そんな訳で、『龍は飛雨に惑う』れびゅはここまで!
お付き合い有難う御座いました♪


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