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龍は荒だつ

四龍(スーロン)島シリーズ二十五冊目は「龍は荒だつ」。
本土伍(ウー)家+黒龍(ヘイロン)市+朱龍(チューロン)市のトリプル攻撃を受けそうな白龍(バイロン)市。
マクと花路(ホワルー)を中心とした白龍の面々と、今は黒龍で頑張る飛(フェイ)くんの戦いがついに始まるってな感じで、
今回の表紙は『波濤を呼ぶ』と並ぶ人口密度の高いイラストです。
そう言えば、『波濤を呼ぶ』れびゅの方で、二番目に人数が多いと書いてましたが、こちらと同数ですね。
何でだろう、数え間違い?(汗)こっそり直しておきました(苦笑)。
黒に色鮮やかな花鳥蝶の紋様の散る背景に、マクと飛くんの他に、花路の孫(スン)、羅漢(ルオハン)、
葉林(ユエリン)(だよね?何か微妙にいい男に描かれてるけど/笑)、白龍屋敷の万里(ワンリー)、クレイが配されてます。
横向きで屈んでいる体勢の飛くんが格好良い♪♪
そして、白い袍(パオ)に包まれた細身と、
青い帯にきゅっと締められた細腰が堪らな…(強制終了)

黒龍の動乱を治めるために、白龍に手勢を借りにいくことにした飛。
次期『黒龍』の名を背負ったまま、マクシミリアンとの再会を果たす。
改めて、自分の還る先はこの男のもとだと感じた飛だが、
確かにこの場所に戻れるのか定まらないまま、師父との戦いの場に赴くことに。
海には本土伍家の船団が控え、陸路からは月亮(ユエリャン)の手勢が迫る。
ついに、島じゅうを巻き込んだ争いの火蓋が切られた!

                                                     (文庫折り返し部分より)

そう言えば、『乱れる』辺りから、
↑のあらすじ紹介で四龍島シリーズの冊数を数えなくなったな(笑)。
ストーリーがいっぱいいっぱいになってきたから?それともめんどくさくなったから?(苦笑)
まあ、そんな編集の都合はともかく。

月亮と再会を果たした後、飛くんは決起の手勢を借りに、白龍へと向かいます。
一方、飛くんの無事を知った月亮は、自分の脳裏に絶えずある面影が、
飛くんではなく、身も心も傾けて愛した玉蘭(ユイラン)のものであったことに気付くのです。
黒党羽老頭(ヘイタンユイラオトウ)が冬眠(トンミェン)のいる竹苑(シュイエン)を襲うべく仲間に号令を掛けているのを他所に、
屋敷身内の老銭(ラオチェン)は密かに、他の身内を集め、北里の為に、月亮の意向に逆らうことを考えるよう勧めていました。
黒龍屋敷勢が既に内側から破綻しかけてますねぇ…

雷英(リーイン)と供に付いた黒党羽十人ばかりを引き連れた飛くんは、
毛家の見張りを倒して、街と街の境にある塀「龍骨」を越えて、白龍市に入ります。
阿片窟跡を会談の場にすることに決めた飛くんは、雷英に白龍屋敷への使いを頼みます。
白龍の港では、街の主が出した触れに従って、船子頭から頭領となった李(リー)が纏める西海風(シーハイフォン)、
燕(イェン)が纏める富浪(フーラン)、再興を許され、一星(イーシン)が纏めることになった祥船(シャンチョアン)の三船主が中心となって、
港中の舟を集め、来たる襲撃に備えていました。
そして、玉蘭、尊夫人(スンフーレン)は、白龍屋敷に戻った後は、屋敷の客房に侍女と共に住まい、
屋敷の前庭を開放して怪我人を運び込み、彼らの施薬に日々を過ごしていました。
元いた南荘(ナンチャン)には雪蘭が代わりに住まうようになっていたのですが、街が緊迫していくに連れて、
青龍(チンロン)の花園(ホワユァン)に帰りたいとぐずり始め(苦笑)、
彼女付きの侍女に求められた尊夫人が雪蘭を慰めるため、南荘を訪れます。
我儘を言う雪蘭を尊夫人は優しく諌めますが、あまり効き目がなさそうな雰囲気です。
で。
雪蘭の侍女に謝られながら、南荘を出て行く尊夫人が、付き従う玲泉(リンチュアン)に、
月亮との恋の話をするところが、印象深いです。
曰く、尊夫人が月亮を拒んだのは、血筋よりも何よりも彼の想いを恐れたからなのだと。
また、苛烈なほどに激しくひとを恋う心の強さと傾きという点において、マクと月亮は似ているとも言います。
「傾き」かぁ…恋ではなくても、何かひとつのことに夢中になることを「心を傾ける」って言いますもんね。
当人の幸不幸は別にして、それって、やっぱり普通ではない状態なんだなあというのをしみじみ感じます。
そうそう、この件で若かりし頃の月亮と玉蘭のイラストがあるのです。
月亮は、雷英から朗らかさを抜いて、代わりに知的さをプラスしたような容貌です。
…別に雷英に知的さが足りないと言っている訳ではありませんよ?(笑)
玉蘭は、飛くんと良く似ている(本当は逆ですね/笑)という設定の筈なのですが、
浅見さんのイラストではあんまり似てるように見えない…(苦笑)
飛くんみたいに前髪がない所為かなあ…(笑)また、玉蘭のほうが儚げな雰囲気です。
尊夫人の話は、他にも細かくピックアップしたいところがあるのですが、長引きそうなので省略。
結局、尊夫人は月亮との恋に関して、過去自分の取った言動の本当の意味を、マクとの会話で初めて理解したと言うのです。
島の和の為などではなく、そのときは彼の想いの激しさに負けて、
受け止め切れなかった他ならぬ月亮の心を受け止めるためだったのだと。
そうして、涙しながら話に聞き入る玲泉にこう語り掛けるのです。

「のう、玲泉……運命とはままならぬもの。
人の気持ちというものは、あたりまえのように、すれ違う。
言えずに過ぎたひとこと、言うてしもうたひとことが、たやすくその心を曲げもする。
遠く隔てられていては、それを取り戻すことがどうにも叶わない。
であるから、想う相手のそばにはなにをおいても近くあらねばならぬのだ……」(54頁)

…経験者の言葉はやはり重いです。心打たれます(涙)。
これがマクや月亮の言った「遠くとも近い心などない」という言葉の尊夫人なりの解釈なんですね。
うん、彼女の言うことは尤もだと私も思う。
でも、マクの真意はちょっと違うと思うのね(笑)。
もっと勝手で独占欲が強い感じがする…(苦笑)
そんなマクは、万里、羅漢と共に、船主の主だった顔ぶれを集めて、街中の様子と手配の進み具合を確認していました。
そこに、雷英が東州茶房の身内だと名乗って目通りを願い出てくるのです。
肩の傷にも構わず、すぐさま壁に掛けてあった長刀を手に取り、その切っ先を部屋に通されて拝跪する雷英に突きつけるマク。
それに動じることなく、雷英は『小黒龍』の使いで来たと告げるのでした。

そして、阿片窟跡にて、ついに飛くんはマクと再会します。
しかし、それは『小黒龍』として『白龍』の協力を仰ぐ政治的な(?)会談でした。
マクの供として付いてきた羅漢、葉林他十人の花路は、飛くんの姿を目の前にしてその無事に安堵し、
喜ぶとともに、飛くんの新たな肩書きに不安を覚えている様子。
一方、マクは言葉の端々に棘を含ませながらも、淡々と飛くんと対話します。
そんなマクに、決起の為に花路の人手を借りたいと飛くんは申し出ます。
そして、その間、当然足りなくなる白龍側の人手を、青龍(チンロン)の高楼街(カオロウチエ)の人手を借りることで補い、
また、朱龍の樹林房(シュリンファン)に協力を求め、
黒龍と示し合わせて白龍に攻め込もうとする朱龍勢を抑えてもらうことを提案します。
途中、マクは皆を下がらせると、飛くんを乱暴に襟を掴んで引き寄せて、戻る気があるのかとやはり詰ります。
黒龍を、或いは島中を覆してでも還れと、そうしないならば、自分が全てを覆して、
その命を絶ってでも飛くんを連れ戻すと脅すように言うマク。
しかし、飛くんはそんな自分に対するマクの言動の全てに、
却って救われるように感じ、先へ進む勇気を貰った気になるのでした。
そして、束の間の対面を終えると、マクは羅漢を含めた花路の人手を雷英に預け、
飛くんには高楼街と樹林房に直接助力を乞うよう求めるのです。
差し迫る状況の中、決起の為の大事な旗印となる飛くんに対する無茶な求めに、反論を唱え掛ける雷英と黒党羽を、
マクは人一人足りないだけで出来なくなるような決起なら始めからするなと、辛辣な言葉で黙らせます。
それから飛くんに、高楼街も樹林房も飛くんに縁深い相手なのだから、
自分よりも飛くん自身が口説くほうが効き目があると言うのに、納得。
自分が周りにどう思われてるか、マクはきちんと把握しているようです(笑)。
北里の西里攻めに間に合うようそれらのことを成し遂げて来いというマクに、飛くんは頷きます。
それから飛くんは、雷英に後のことを頼み、羅漢と葉林と短いけれども、心の篭った言葉を交わした後、すぐさま出発します。

そうして、飛くんは駆けに駆けて、まずは南里の樹林房主人、松妙(ソンミヤオ)、
次いで東里の高楼街の頭(トウ)、酔熊(ツォイション)に事情を打ち明け確かな協力を取り付けます。
どちらも難しい頼みであるにも拘らず、快く頷いてくれる彼らの姿に、
私は飛くんの万人を惹き付ける魅力を改めて感じましたよ♪
というか、どこかでも述べましたが(笑)、この緊急時にいたって、飛くんがこうして次々と助けを得られるのは、
それまで飛くんが彼らに対して優しく誠実であったからだと思うのです。
まさに、人徳ですね☆
それに比べてマクは…というのは言ってはいけないお約束(笑)。
しかし、高楼街を訪れて、すぐさま黒龍へと戻る飛くんに対する笑鈴(シャオリン)の回想シーンに言いようのない不安を覚えます。↓

無事を祈ってるわと声をかけると、不意の客が苦笑で応じてくれた。
『幾度も世話になった。どうか幸せで、大姐(タージエ)』
『あら……いやねえ。これが永の別れじゃないって信じてるわよ』
走り去る後ろ姿が忘れられないのは、なぜだろう。(126頁)

え〜ん、何で飛くん、そんな読者の不安を掻き立てるようなことを言うのぉ〜〜っっ!!(大泣)
…と、当時の私は不安いっぱいでしたが…後にこの不安、ドンピシャになってしまいます(苦)。

・「龍は荒だつ」ベストオブイラスト。

飛くんは、これまた休まずに走り続け、黒龍へと戻り、雷英が用意してくれていた俥で、
冬眠たちが攻撃されるだろう竹苑から移った龍巣への道を急いでいました。
その間、助力を誓ってくれた人々の優しさに対する感謝の念を改めて噛み締める飛くん。
願わくはもう一度彼らに会いたい…などと考えてるところにまた不安を覚えてしまうのですが…(汗)
同時に、彼らとのめぐり合わせてくれた運命、
そんな全てのものに感謝の念を抱かずにいられない自分のこうした心を養ってくれたのは、
師父(シーフ)であるのだと、改めて思い知るのです。
道が悪くなった為、俥から降りて、走り出そうと行く手を見やる飛くん。
…と、この辺りで、ピックアップしたベストオブイラストの場面となります。

131頁のイラスト。

飛くんが龍巣に向かう多くの黒龍屋敷側の黒党羽勢を発見して愕然とする場面です。
流石親といいましょうか、襲撃した竹苑が空だったことを知らされた月亮は、
瞬時に龍巣に皆を移した飛くんの策を見抜いたのでした。
今回ピックアップしたのは、邪なときめきはないイラストなのですが、
寒々とした暁の空と黒い影となっている葉の落ちた冬の木々を背景にした飛くんの姿がとても鮮やかで…
飛くんの驚きと決意を感じさせる厳しい表情が凛々しく且つ美しいです♪♪
師父に策を見抜かれ、先手を打たれたと悟った飛くんは、全速力で龍巣まで駆けます。
辿り着いた先では、雷英、花路を引き連れた羅漢も含めた皆が既に揃っており、采配を預けられた飛くんは、
休む間もなく、皆の士気を高め、真正面から敵を打ち破ろうと打って出るのです!!
ああ、もうカッコいい!!(握り拳)

・「龍は荒だつ」名場面。

という訳で、今回の名場面もピンポイントではありません。

136頁から始まる決起勢を率い勇ましく戦う飛くんの姿♪

その全部を、名場面として推奨したいと思います!!
もうもう、カッコいいんだ〜〜、ホントに♪♪
『嵐に遊ぶ』のVS青龍戦での飛くんの勇姿にも興奮したものでしたが、今回も大興奮!!(笑)
以降、所々飛くんのカッコいいところをピックアップしつつ、レビューを進めていきます。

黒龍屋敷からの追っ手と左右正面と三方に分かれて突き当たった決起勢。
争う相手に、党羽の廟主(ミャオシュ)たちがいるのに、敵方の党羽は怯みますが、
それでも、多くが戦うことに不慣れな農夫や老人である決起勢は不利に見えました。
しかし、飛くんは、少し下がっていろという雷英の言葉を聞かずに、進んで前へ出て、
一度に三四人で打ち掛かってくる敵を相手にしても怯まず倒しながら、前へと進んでいきます。
守ろうとする周囲を置き去りにする勢いで闘う飛くんの勇ましい姿に、
今まで庇われる一方だった者たちも勇気付けられ、工夫を凝らして闘い始めます。
そして、ついに。
決起勢は、追っ手の囲みを突き破り一つ目の勝利を得るのです!!
私はこの飛くんの姿を見て、こういう集団の統率者が背後に控えることなく、
自ら正面に出て真っ先に闘う姿が何よりもかっこいいのだということに気付かされました♪
もちろん、敵の命を奪うことはしません。
正々堂々とした清々しさすら感じさせる闘いぶりです♪
それに、味方が不利な場合は特に、こういう闘い方が功を奏するとも思うのです。

一方、白龍でも、本土の船団と北里勢が一気に攻め込み、港と街境の龍骨付近とで戦いが始まっていました。
皆苦戦し、陸では孫が、海では李が大きな傷を負ってしまいまい、孫は幾人かを止めきれずに逃がしてしまい、
李は自分に傷を負わせたあの青龍から本土に乗り換えた刺客、天狼(ティエンラン)を逃がしてしまいます(汗)。
それでも彼らは飛くんを心の頼りに、諦めずに闘おうとするのでした。

そして、飛くんたち決起勢は次いで白龍を目指して進む毛家の手勢の背後を突きます。
飛くんは突き当たる相手に、こちらの理を説いた上で、撤退か味方に加わること求めます。
それでも、得物を振るってくる相手を打ち倒すと、その向こうで怯える郊外から集められたという男たちに、
飛くんは同じように、北里を正すために力を貸してほしいと口説きます。
彼らが迷っているうちに、新たな敵が迫ってきて、飛くんは彼らに背を向け、
敵であった彼らを守って引かない敵を打ち倒すのです。
その清々しい姿と腕っ節の強さを見て、望まぬ招集をかけられた彼らは、
飛くんが噂で聞いていた『小黒龍』であることを悟り、彼らと似たような姿の決起勢が、
敵をまず説いている姿を目の辺りにします。
このように飛くんは次々と迷う者を背に庇い、闘い続けます。
そうして、次第に庇う者たちが味方に加わり、同じように敵を口説き始めるのです。
敵を味方に加えながら闘う決起勢は、ついに敵を圧し、打ち破るのです!!素晴らしい!!
飛くん素敵!カッコいい!!
前々から惚れこんではおりますが(笑)、ここで更に、
惚・れ・る!!
次いで、黒龍と白龍の境の龍門に辿り着いた飛くんは、決起勢の精鋭のみ、
黒党羽や花路を率いて、既に龍門を打ち壊して白龍に入り、孫率いる花路と争う毛家の手勢に襲い掛かります。
敵を倒しながら、仲間に的確な指図をし、何よりも花路の仲間たちが心の支えにしていた飛くんが、
加勢に加わったことにより、一気に形勢は逆転します龍骨沿いの敵をすべて倒します。
激しい戦いで満身創痍となった孫は、他の花路と同様、飛くんと再会できた万感の想いを噛み締めますが、
街中に入った敵までも追ってくれようとする飛くんに首を振ります。
飛くんにはまだ、黒龍でやるべきことが残っている筈だと、
いつものように指図をくれるだけで、自分たちは頑張れるからと言ってくれるのです。
仲間たちの暖かい気遣いに心からの礼を言い、飛くんは花路と別れ、黒龍へと戻るのです。
毛家当主を討ち、黒龍屋敷へと向かう為に。
しかし、飛くんと別れた後、孫は羅漢に飛くんの傍に戻るよう頼みます。

「大兄も感じたでしょう?頭は、なんだか覚悟を決めちまってるみたいな様子だった。
嫌な予感が、するんです。だから」(191頁)

やはり、花路の親しい仲間たちも読者(私)が抱くのと同じ不安を抱いていましたか…(汗)
しかし、孫、伊達に飛くんファンクラブの隊長を務めるだけのことはある(違)、
その不安の形は、上記の笑鈴よりも明確です。

黒龍屋敷には、龍巣を襲おうとした手勢が打ち破られたとの知らせが入ってきました。
思わぬ知らせに、驚き憤る黒党羽老頭に対して、月亮は静かにその知らせを聞き、敗退を知らせ、
拝伏する黒党羽を許して下がらせ、老頭に対しても命が惜しいならここから去れと言います。
涙を堪えながらも、頑固な老頭はそれを聞かず、指図の為に出て行きます。
月亮はまた、屋敷身内の老銭にも好きなようにするといいと告げるのです。
賢くあった先代北里主人の長子は幾年も前に死に、ここにいる自分はその虚しい骸に過ぎないからと(寂)。
しかし、まだこの命は捨てるまでには何かが足りないような気がすると言うのでした。

毛家に決起勢を率いて向かう途中、羅漢が戻ってきたことに驚く飛くんに、
羅漢は飛くんの傍にいなければならない気がしたと正直に告げます。
その思いやりに胸の痛みを感じる飛くんでした…(哀)
そうして、毛家本邸に決起勢は押し入りますが、館は既に空で、書庫に隠れていた毛家当主の息子だけが見付かります。
その息子の証言で、戦況の不利を悟った毛家当主蜂焔(フォンイェン)が海に逃れたと聞き、飛くんはすぐさま後を追います。
黒龍の小さな港の桟橋でついに、蜂焔を取り押さえた飛くん。
隙を突いて短刀で自害しようとする蜂焔を、咄嗟に止め、その頬を打ち、そうして済むと思うのかと詰った飛くんに、
蜂焔は月亮の心を、黒龍を、島全体を危うくした飛くんの命こそ永らえて済むものではないと逆に詰ります。
酷い言葉に、横から割った入った羅漢は激昂しますが、当の飛くんは、

「……ああ。済むとは、思わない」(205頁)

低く応えて踵を返し、黒龍屋敷へ向かうのです。
ここで初めて飛くんの考えていたことが明らかになります。
それは読者と飛くんを大事に思う皆が抱いていた不安を裏付けるものでした(泣)。

済むとは思わない。
では、なにをもって購える。
なにをもって、償えるという。
なにをもってすれば、あの心を、あの命を、すくい上げられるというのだろうか。
それは、この命をもってしなければ、ならないのではないかと、わけもなく、そんな予感を覚えるようになっていた。
悟ったのは、あのとき。
待っていたのだ、と。
見る影もなく痩せたあのひとの言葉を、耳に聴いたときだ。

……マクシミリアン。

許せ。
逆の道を駆けている。
いますぐ踵を返してそこへたどり着きたいというのに、なぜか。

「飛!」

……花路のみなも、許してくれ。
そのときには。(206頁〜207頁)

前作『麾く』で師父と邂逅した折に、飛くんが宣言した悲壮な決意には、
自分の命と引き換えにしてでも、という覚悟が秘められていたんですね…(涙)
でも、そんなのやだ!!(叫)
花路だって、樹林房だって、飛くんを好きなひとたちは皆そう思うよ!!
何よりもマクが許さないでしょう!!
…と、思ったとおり、白龍勢が黒龍勢を押し返す気配を見せ始めると、
万里に幾つか指示を出した後、マクは得物を手に単身屋敷を出て行きます。
途中、南荘に立ち寄り、ちょうどそこにいた『小白龍』の母、絲恋(スーリェン)に、
手にした小袋を渡しながら、雪蘭に関する頼みごとを耳打ちします。
それから、ちょうど玲泉とともにやって来た尊夫人に「勝手をされるがいい」と伝えます。
その意味をすぐに悟った尊夫人は、マクの頬をそっと手で包んで、無事に戻ってくるよう告げるのです。
そうされたマクは、少々顔を歪めて、

「その顔で……こういうことをなされては、なおさらに気が逸る」(219頁)

と、言って、尊夫人に正直な男だと言われてしまいます。
一刻も早く飛くんを目の届く傍に引き摺り戻したい訳ね(笑)。
そうして、マクが去った後、尊夫人もまた、玲泉に揺籃曲(ヤオランチュイ)…
生まれたばかりの飛くんに良く聴かせていた子守唄を預けて、ひとり屋敷を出て行くのです。

決起勢の先頭に立つ飛くんはついに、黒龍市街の目抜き通り入口に到達します。
自分の命を賭してでも、月亮の心を救わずには還れないと改めて思う飛くん。
そして、心の中でマクに問い掛けるのです。
骸となり、魂魄となって戻ってもいいか…と(泣)。
うわ〜ん、良くない!良くないよ〜〜っ!!(絶叫)
…でも、飛くんの師父への想いを考えると、この決意はなかなか揺るがし難いと思うのです……(汗)
さあ、果たしてマクは間に合うのか?!
そして、飛くんの命をがっちりこの世に繋ぎ止めることができるのか?!!
頼むぜ、旦那!!

そんなこんなでこの『龍は荒だつ』れびゅも終了です。
お付き合い有難うございました♪