永久の調べ
永久の調べ 15
コンテスト当日。
ルイにとっては最後の日。運命の日だ。
昨晩は結局、眠れなかったルイであったが、頭は冴えていた。
これなら審査会場で無様な失敗をすることはない。
そんな自信さえ持っていた。
「いい顔だな。これなら優勝だ」
ルイの自信に満ちた表情を見て、桜花もそう声を掛ける。
審査会場である街の劇場へと向かう馬車に乗っているのは、ルイと桜花の二人だけだ。
カトレーヌは家の雑用を済ませてから、会場に来ることになっている。ルイの審査が始まるまでには間に合わせると言っていた。
「昨夜はあれからぐっすり眠れたか?」
「ああ、まあね」
「そうか。それなら良かった」
ルイは桜花に曖昧に微笑む。
その笑みの意味に気付く筈もない桜花は、無邪気に微笑み返すと、馬車の御者にも親しげに声を掛けている。
昨晩から抱えている痛みを伴ったもどかしさが再び強くなる。
「どうした、ぼーっとして。やっぱり緊張しているのか?」
ルイは自分の胸の内に気付きもせず、間近で顔を覗き込む相手に苦笑する。しかし、胸に抱えた思いを口にすることはしない。
第一、 ルイ自身も言葉にすることができるほどこの気持を整理できていないのだ。
目の前の相手ではなく、自分の気持自体をはぐらかすように、言葉を返す。
「本当ならもっと緊張していてもいいんだろうな。桜花のおかげで緊張している暇がないよ」
「むっ、それはもしや俺が騒がしいということか?」
「あれ、そう聴こえなかった?」
桜花は黙ってルイの首を締める。
「いててて」
「騒がしくて悪かったな!」
口調は怒っているが、首を締める手に込められた力はそれ程強くない。
完全なふざけ合いだ。いつも通りの、そして最後の………
ルイは軽く声を立てて笑いながら、静かに、けれど強く押し寄せてくる胸の痛みを半ば無理矢理に心の奥へと押しやった。
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