永久の調べ


   永久の調べ 14

 

まあ、なんと言うことでしょう。

姉にこんなに大きな子供がいたなんて。

 

…ごめんなさいね。

いくら姉が家から勘当された身であったからといっても、たった一人の血の繋がった妹である(わたし)が、こんなことも知らなかったなんて。

……正直言うとね、私は姉のことが理解できなかったの。

けれど、こうなる前に姉を探し出すべきだった。

…もっと真剣に姉と向き合っていればよかった。

今になってはそのことが悔やまれるばかり。

いいえ、こんなことは言い訳にもならないわね。

それに…姉がどうであろうと、貴方たちは貴方たちですもの、私の大切な甥であることに変わりは無いわ。

 

………今まで…大変だったでしょう。

ねえ…もし、貴方たちが良ければの話だけれど、私と…私たち家族と一緒に暮らすことはできないかしら?

 

ええ、そうね。

今までこんな状況を知らずにいた私の罪滅ぼしでもあるわ。

でもね、それだけではないの。

貴方たちは私の大切な甥だから。

家族だから。

だから、一緒に暮らしたいの。

夫にはこれから話すつもりだけれど、きっと反対はしない筈。

ルイも…息子もきっと同年代の従兄弟たちに会えたら喜ぶわ。

 

…一緒に暮らしましょう?

 

 

ネエ、私タチハ幸セソウデショウ?

優シイ夫ニ、可愛イ息子。

領主一族トシテノ何不自由ナイ暮ラシ。

ソレニ比ベテ貴方タチニハ愛ヲ注イデクレル両親モ、裕福ナ暮ラシモナイ。

 

可哀想ナ貴方タチ。

 

…ダカラ、幸セナ私タチガ、貴方タチニソノ幸セヲ分ケテアゲル。

私タチノ幸セヲドウカ受ケ取ッテ。

 

 

 

優しく手を差し伸べる叔母の言葉の裏に、そんな傲慢な声が潜むように思われてならなかった。

それはおそらく、叔母に出会うまでに過ごしてきた日々の中で、自分の心がどうしようもなく歪んでしまった所為だろう。

叔母には何の罪も無い。

だが、こんな歪んだ心を持った自分が、叔母とその家族と共に暮らしていける筈が無い。

その判断は正しかったのだと思う。

しかし、叔母と出会ったことで、彼女たちの幸せな暮らしを見てしまった。知ってしまった。

歪んだ心はそれを拒否し……気付けばこんなところまで来てしまった。

 

 

「ウルリック。明日だ。明日しかない。手筈は憶えているな」

「ああ、分かってる」

 

 愚かな弟ではあるが、刹那的な快楽をのみ求める姿を、少し羨ましく感じることもあった。

 しかし、自分は自分だ。

 時を重ねて歪められ、また、自ら歪めた心は…変えられない。元には戻らない。

 

 ……後戻りは…できない。

 

「まずは目障りなあの医者からだ。それからリューイガルドを…」

 

 バーンスタインは自嘲するかのような笑みを一瞬浮かべたが、すぐにそれを酷薄な笑みへとすり変えた。

 目先にあるこれから自分のやらねばならないことに捕らわれていたウルリックは、その表情の変化に気付くことは無かった。



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