永久の調べ


永久の調べ 12

 

 閉じた扉に寄り掛かった桜花(おうか)は、溜息をつく。次いで物憂げに伏せていた目を上げた。そこで、信じられないものを目にして大きく目を見開く。思わず声が掠れた。

「……カトレーヌ…」

「桜花様……」

 目に一杯涙を溜めた彼女の様子は、明らかに彼女が先ほどの会話の内容を聞いてしまったことを示していた。

 それでも確認の言葉が唇から零れ落ちてしまう。

「カトレーヌ…今の話を…?」

「あの…(わたくし)…桜花様を探して…バーンスタイン…様がいらっしゃったものですから………」

 頬を引きつらせ、声を震わせながらカトレーヌは言葉を紡ぐ。

 彼女が一体何にこれほど動揺しているのか、桜花には痛いほど分かった。

「カトレーヌ…」

 堪らずにカトレーヌを抱き寄せる。

 その拍子にカトレーヌもたがが外れたように泣き出す。嗚咽混じりに、

「…私…私は……知らずにルイ様の…お命を縮める…手伝いをしていたのですね………何て…何てことを………!!」

肩を震わせながら自らを責める言葉を口にする。

 その今にもくずおれそうな肩を支えるように、桜花はカトレーヌを抱き締める。

「…カトレーヌの所為じゃない。カトレーヌの所為じゃないんだ……すまない……」

カトレーヌの痩せた背中を優しく撫でながら、桜花は知らず謝罪の言葉を口にしていた。

 

 こんな形で真実を知らせてしまったこと…

 今まで本当のことを言わなかったこと…

 そして…今だ彼女に隠している事実があること……

 

それら全てに対して、謝らずにはいられなかった。彼は悲痛な思いにその美貌を曇らせたまま、天井を見上げる。

淡い光を投げ掛ける天窓から見える初秋の空。

その青は美しくありながらも切なく、悲しげな色合いだった。



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