龍は暁を求む

四龍(スーロン)島シリーズ二十三冊目は、「龍は暁を求む」。
まさに、身も心もどん底状態であったマクと飛(フェイ)くんが、
何とか先の道を見つけ出そうと、夜明け(暁)を見出そうと動き出すという巻です。
真っ白な背景に、マクと飛くんのツーショット(これはいつもだな/笑)という表紙イラスト。
マクは、傷を負い、白い袍(パオ)の右肩を血に染めながらも、その右手に剣を持ち、
何にも屈しないとでも言わんばかりの冷たくも険しい表情で剣を翳しています。
その後ろに、飛くんのアップ。
くっきりとした睫際立つ伏目がちの瞳に、僅かに微笑んだ薄紅の艶やかなくちびる…♪♪
それが何とも言えず艶っぽい♪(嬉)
清々しい色香漂う姫に乾杯♪♪

冬眠(トンミェン)に、『黒龍(ヘイロン)』の座を譲らず月亮(ユエリャン)と戦ってくれと迫る飛。
だが冬眠はのらりくらりと返答を避けるばかり。
そこに毛(マオ)家の使者が現れ、草朗(ツァオラン)が父に監禁されていることを告げた。
飛は、草朗を救いだす代わりに願いを聞いてくれるよう取引を申し出る。
一方白龍(バイロン)では、悲しみにくれる花路(ホワルー)の前にマクシミリアンが現れた。
悔しいなら仇を討てと挑発するマクシミリアンに、花路は一斉に刃を向けた……!

                                                     (文庫折り返し部分より)

ま〜た、マクがひとの傷口に塩を塗り込むどころか、擂り込むようなことをやってるよ…
と一瞬思ってしまう(え?思いませんか?/苦笑)記述ですが、今回のマクはお遊びではなく、本気なのです。
本気で花路に喧嘩を売るマク。
それもどうよ、という気もしますが、飛くんへの愛ゆえに(え?これも違ってますか?/笑」)、
ぶつかり合う男たちの姿には、かなりときめかせていただきました!!(喜)
その詳細は、おいおい語っていくこととしまして、レビューに入りましょう。

前巻「希う」ラストで、冬眠に押し倒された(笑)飛くん。
今回はちゃんと、押し倒し場面を描いた浅見さんのイラストがあります!!(笑)
苦しげな(不快さを堪えてる/苦笑)飛くんの表情が、これまた何とも艶っぽいのです!!
月亮を迎える為に、長い忍従の時を耐えてきたのだから、この後はもう少しも乱れがない方がいいと言う冬眠。
乱さなければ手に入らないものもあるのではないかと返す飛くん。
それでも頷かない冬眠が、話を聞く代わりに、と持ち出したのが、草朗の代わりとなって夜のお相手をすることでした。
ついでに、甥であることも見破られますが、それが部屋を去り際に雷英(リーイン)が冬眠に告げた言葉が切っ掛けだったことに、
遅ればせながら気付かされ、飛くんは内心歯噛みします。
…こんな風に雷英の策士振りが垣間見える場面がこれから幾度となく出てきます(苦笑)。
血が滲むほど唇を噛んで堪え、それでも逃げようとしない飛くんの姿に、
冬眠はこうして肌を重ねていると互いの想うところが肌を通して染みていくようになるのだと、そして、
想う相手があるならば、その相手のことを考えているといいとアドバイス(…か??/笑)します。
長く侍者であった草朗もこのように堪えていたと話しながら、冬眠は手指を進めます。
さり気なく再び、逃げ道を示しても飛くんは、やっぱり退くことなく…
これはホントにホントにピンチかもッ!!!(焦)
と、(私が)思ったところで、冬眠が賓荘(ピンチュアン)の外で自分の名を渾名で呼ぶ女の声に気付きます。
忙しく飛くんから身体を離し、部屋を出て行く冬眠を飛くんが何処へ行くのだと、慌てて追うと、
冬眠は自分の「冬眠」という渾名をはばかりなく呼ぶ者は少ないのだと教えます。
そうして、騒がしいと見張りに今にも打ち据えられそうになっていた老婆を、
冬眠が知り合いだと上手く言いくるめて、助け出します。
寒さと恐れに震える老婆の身体を温めさせながら、冬眠は老婆が口を開く前に、彼女が草朗の使いであることを言い当てます。

父、蜂焔(フォンイェン)に気を失うほど(泣)叩かれた後、草朗は毛家仮館の書庫に閉じ込めになっていました。
自分と冬眠の二十年近くにもわたる長い忍従のときを無駄にしたくない一心で、
彼は何とか父の企みを冬眠に伝えてくれるよう外へと呼び掛け、それに応えてくれたのが、
彼の乳母で毛家に戻った後も親身に接してくれた老婆でした。

ようやく口が利けるようになった老婆は、ひたすら草朗を助けてくれるよう冬眠に懇願しますが、
冬眠は彼が理由もなく救いを求めてくることはないと、何か言伝を預かっていないかと老婆に問います。
酷い人だと冬眠に憤慨しつつ、老婆は途中で見張りがやってきたために、言伝を預かる間もなく館の外に出たのだと答えます。
その別れ際に動転していたのか、訳の分からない話をしたと言う老婆に、その話の内容を冬眠は問います。
それはこのようなものでした。

"大きな梨の実を売りにきたものを信じてはなりません。あれは、曲者でございました。
どうやらとなりの果園(クォユァン)に縁があるとみえ……"(本文41頁)

それだけで冬眠は、草朗の伝えたいことを察したようでした。
そうして、飛くんにある謎かけを持ち出すのです。
ある梨の木にできたとても大きく良い香りを放つ実と、小さな貧弱な実があったが、
ふいの嵐で大きな実は熟しきる前に失われてしまい、人々は嘆きながら、小さな実に目を向けたと。
しかし、あるとき失われた筈の大きな実が、汚れも傷もないもとの姿のままどこかから届けられたのだと。
そうして、この二つの実のどちらを選ぶかと冬眠に問われ、飛くんは迷わず小さな実を選ぶと答えます。
小さな実を甘く大きく育てることはできる。
だが、一度枝から離れ、水も土からの栄養も得られなかった大きな実は、
外見は汚れなく美しく見えても、まやかしか毒であるに違いないと。
きっぱり言いながらも、理由の知れない胸の痛みをおぼえる飛くんでしたが、
冬眠の様子に好機を悟った飛くんは、取引を申し出ます。
草朗を無事救いだすことができたら、『黒龍』の椅子に留まって欲しいと。
せめて、飛くんが月亮と話す時間と機会を得られるよう『龍』継承の時期を伸ばして欲しいと頼みます。
そこでやっと冬眠は、草朗が思わぬ知らせを齎すかもしれないと謎めいた言葉を添えながら、取引に応じるのです。
すぐに出発しようとする飛くんでしたが、それを梨樹(リーシュ)が途中で呼び止め、自分も同じような謎々を出されたこと、
そして、大きな実は月亮のことで、小さな実は冬眠のことではないかと教えてくれます。
飛くんが胸の痛みをおぼえたのは、月亮が病んでいて、『龍』を継ぐに相応しくないことを、
知らずに断じてしまったからなんですね……(悲)
そして、では「となりの果園」とは何かと飛くんは考えるのでした。
…本土だよ!!と読者は教えてやりたい気持ちいっぱいなのですが(笑)、
飛くんたちにそれが分かるのはもうちょっと先です。
冬眠は大体のところを察しているようですが。

・「龍は暁を求む」名場面。

これはいつも、どれにするか悩んでしまうのですが、飛くん登場シーンは全て名場面であるとの前提を元に(笑)、
今回は↑でも触れた、マクと花路の男たちの喧嘩(?)シーンに致しましょう。
もう一度花路を作ろうという思いを胸に、今は阿片窟跡に身を潜める花路の人々。
そこに、執事の万里(ワンリー)だけを連れたマクが俥でやってきます。
飛くんを苦しめた元凶である男を目にし、花路の仲間たちは思わず、刃を向けます。
思慮深い大兄、葉林(ユエリン)と、手痛い失敗を経た羅漢(ルオハン)と孫(スン)は、辛うじて堪えますが、
人を喰ったような挨拶をするマクに、刃を向けた仲間たちは堪えきれずにマクを非難します。
花路、街の平穏、そして何よりも自分たちの頭(トウ)を返せと。
待て、と更に仲間たちを止めようとする羅漢に、待つことはないと言い、マクは手にした剣を構えます。
そうして、制止を聞かずに飛び出していった花路の男を叩きのめしたのを皮切りに、
マクへの恨みを抱え続けていた者が次々にマクに挑みかかっていきます。
そのひとりひとりと刃を打ち合わせ、倒していくマク。
右肩の傷が開き、肩に血を滲ませても退くことなく「返して欲しければ、争って奪い返せ」と、刃を振るうマクの姿に、
花路の仲間たちは初めて、噂や憶測だけでないマクという人物を目にするのです。
そのうち、いきり立つ仲間を留める立場に居た孫が、出て行ってもいいかと、言い出します。
羅漢がそれを止め、自分が出ると言って、マクの前に立ちます。
激しく刃を打ち合わせながら、羅漢はマクに、奪い返せといっても、
飛くんの命だけは戻らないと言い、彼を失った痛みをマクも覚えているのかと問います。
それに、マクは飛くんは生きていて、必ず還るのだと断言し、羅漢を負かしました。
マクの実力と飛くんへの想いの一端を感じたのであろう羅漢は、潔く負けを認め、拝伏して罰を乞います。
それに応じるように、花路の他の仲間たちも皆、次々と拝伏し、共に罰を受けることを願うのです。
それは、初めて花路がマクを真の街の主として、認めた瞬間なのかもしれません。
しかし、マクはそれに冷たく笑って、自分は優れた主にはならないと宣言します。
そして、花路を遠ざけ、取り潰しに追い込んだのも事実だと言い、それは飛くんを手に入れたかったからだと言うのです。

「あれは、龍玉だ。あれを得るためならば、わたしは……
なにをどう傷つけ、なににどう傷つけられようとも、少しもかまわない。
仮に、あの男がわたしから離れてどこかへ逃げ込もうというのなら、その場所を容赦なく叩き壊して無理やりにでも連れ帰る。
あれを奪い去るものがあるというのならば、それがどこぞの『龍』であろうと、もしくは運命(さだめ)そのものであろうと、
遠慮なくつかみ潰して、この手に奪い返してみせよう。わかるか、花路ども。これは、妄執に等しい。だから……
はじめに言っておく。咎めがほしいなどと甘い戯言を吐く暇があるなら、かわりにこの場でよくよく考えるといい。
おまえたちの目のまえに立つ男は、例えようもない性悪で、先代とは似ても似つかぬ痴れ者だ。
それを、たとえわずかなあいだでも、主として戴いていいものかどうか……
そうして並べているあたまを残らずつき合わせて、いまのうちに考え直しておくことをすすめるぞ」(75頁)

マク、性悪及び痴れ者宣言と共に、飛くんへの熱〜い想いを憚ることなく公表(笑)。
…とか言って、茶化してますが、本気モードのマクの言葉はなかなか胸を打つのです。
この後に、もし、自分を除くべきだと判断したならすぐに殺せばいい、その代わり、
骸は飛くんの墓の隣に葬ってくれとまで言うのです……(ちょっと感動)
まさに「死がふたりを分かつとも傍に」と願う熱烈な告白です!!
もう外聞を憚らない域に入っちゃってますね、マク。
愛する飛くんの傍近くに居る花路の男たちに、飛くんの所有権をきっちり主張しときたかったのかもしれません。
…と、結局茶化してしまう私(笑)。

そこに、優秀な白龍屋敷執事、万里が気を利かせて手配した俥で、尊夫人(スンフーレン)がやって来ます。
その姿を初めて見る花路の男たちも、飛くんとそっくりの容貌をした女性が誰であるのかをすぐに悟ります。
尊夫人は、花路の仲間たちにも、騒動の元となった飛くんの出生と自らの素性、月亮のことなど全てを打ち明けます。
そして、街の為に尽くしてくれたこと、飛くんに親しんでくれたことの礼を告げた上で、尊夫人は花路に問います。
憎い敵の子と思い込み、報復の為に月亮に育てられた飛くんのことを。

「そうして育てられ、長じて、ようやくこの地にたどり着いてくれたあの子は……
憎しみと、恨みと、哀しみしか抱かぬ酷い男の手で、
幼きころより育てられたような姿を、見るからにしていたろうか」(83頁)

母でありながら、自分はあの騒動の折、大龍(ターロン)の廟所で顔を合わせたきりで知らないのだと。

「けれど……そなたたち花路百余名が、あの子とともに歩んでくれていたのだと聞かされた。
そこにおいでの当代どのも、あの子を、なにをおいてもそば近くにと強く望んでくだされる。であるからには……
寒々しい荒れ野のごとき心に長く抱かれ、辛く険しい道ばかりを歩んだがために……
荒み、疲れていたわけではなかろうと、そう都合よく思うても、よかろうか」(83頁)

内容には関係ないですが、尊夫人の話し方が結構好きです。
元『龍』であった所為か、どちらかといえば、男性的な話し方で、月亮とのやりとりなんかを拝読していると、
容易く男同士のカップルに変換できそうなところが♪…って、すみません、妄想激しくて(苦笑)。
…さり気なく、尊夫人がマクと飛くんの仲をしっかり認めちゃってるのがちょっと笑えます。
良かったね、マク。「良くない!」と叫ぶ飛くんの声が聞こえてきそうです(笑)。

で、その尊夫人の問いに、花路の仲間たちは力いっぱい(笑)飛くんは「春の暖かい陽射し」のようで、
「嵐に吹かれたって簡単には折れない、しなやかな竹みたいに強かった」などと、褒め称え…違った、
優しくて暖かくて強い人だったと請合ってくれます。
流石に、「そこらの女では太刀打ちできないほど綺麗で色っぽい」とか、
「笑い掛けられると胸がきゅんとする」とかは、尊夫人相手には言えなかったみたいです(笑)。
彼らの言葉を受けて、尊夫人は、飛くんが死んだという確かな証はない、だから、彼が生きていることを信じようと言います。
それに、花路の皆は一も二もなく頷くのです。
そうして、マクと手荒な仲直り(?)をした花路は、
これから起こるであろう街の大事に共に当たる為、白龍屋敷へと入るのでした。

・「龍は暁を求む」ベストオブイラスト。

そして、草朗を救いに、彼が移されたという毛家本家に向かった飛くん、雷英、猫(マオ)は、
毛家の土地に近付くにつれ、見張りの数が黒龍屋敷よりも多いことに不審を覚えます。

草朗は本家に移されてすぐに閉じ込められ、弟たちに拷問めいた仕打ちを受けていました。
毛家の跡取りを辞退して、家から消えるよう強要する彼らに、
草朗はもし、父の意向が黒龍と異なった時に、正すことが出来るかと問います。
それに、バカ弟どもは、迷わず屋敷をないがしろにして、父に従うと答えるのです。こりゃ駄目だ(汗)。
更に、父への孝心を忘れたかと蹴られ、罵られ再び、草朗は気を失ってしまいます。

案外強情だと言いつつ、弟たちが去って行った近くに、飛くんは忍び込んでいました。
屋敷に忍び込んだ後も、手勢の多さは変わらず、飛くんはますます不審を募らせます。
さり気なく下仕えの者たちに紛れ、そのうちの一人にこれまたさり気なく声を掛け(このやり方が上手いんだ、飛くんは)、
短い会話から、草朗の居そうな場所の見当を付けます。
そして、屋敷裏手の庭にあった目立たない小屋に閉じ込めになっていた草朗を見付け出すのです。
…と、ここまで来て、今回私がセレクトしたベストオブイラストです!

117頁のイラスト。

ようやく気が付いたものの、酷い待遇の連続で熱が出たらしく、ふらふらの草朗を支えて、
得物を持ち小屋を出る飛くんのイラストなのですが、
飛くんの凛々しく引き締まった表情がカッコいいのです!!
そして、ほっそりと引き締まった腰(笑)にも見惚れます♪♪
飛くんは「姫」だと断言(笑)しつつ、
こんなカッコいいイラストを選ぶのはおかしいと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、
私は凛々しい姫推奨なので、私の中では全く矛盾はありません!!
むしろ、もっともっと格好良いいところを見せて♪♪と大歓迎なのです(笑)。
草朗を勇気付けて、先に行かせ、異変を察して次々と駆け付ける見張りを一手に引き受け、倒していく飛くん。
しかし、手練相手に苦戦しているところに、別を探していた雷英、猫が加勢に駆け付け、何とか屋敷を脱出できます。
まだ、傷が完全に癒えていない飛くんでしたが、一刻も早く毛家の土地を出ることを優先して、
猫のやめたほうがいいとの助言を聞かずに、草朗を雷英と交替で背負いながら、元(ユァン)家まで走り通すのでした。
…なんて、漢前なの、姫♪♪(笑)

そうして、何とか無事に、冬眠のいる賓荘に戻った飛くんたち。
今にも息絶えそうなほど弱り、すぐ寝台に横たえられた草朗でしたが、
飛くんの前で止めるような素振りを見せる冬眠に構わず、蜂焔の本土伍(ウー)家と結んだ裏切りを告げるのです。
やっと、草朗の言伝の意味を理解したと同時に、悠長にしている場合ではないと判断した飛くんは、
その場にいる者全員に自分出生を打ち明けます。
それでも、自分は西里に還りたいのだと、その為には西里が、ひいては島全体が平穏にならなければならず、
この北里をこのままにしておく訳にはいかないと、今度は半分脅し混じりに強く冬眠に助力を乞うのです。
この強気飛くんがこれまたカッコいい♪
更に詳しい話をと強気に迫られた草朗がそれに頷き、後に、彼も冬眠に起ってくれるよう願います。
冬眠は思慮深い優れた主であると信じていると。
冬眠もやはり、街を思う心から、徐々に飛くんの願いを受け容れる気になっていくようです。

一方、本家が賊に襲われ、草朗が姿を消したという息子たちの報告を聞いた蜂焔は、
冬眠にそこまでする度胸はないとは思うものの、警戒心を抱きます。
そこで、月亮に対面した時に、さり気ない風を装って、冬眠のいる竹苑(シュイエン)に人手を増やすよう求めます。
その求めに頷き、月亮は、蜂焔に毛家を治めることに集中できるよう、暇を与えます。

蜂焔は上手く立ち回っていましたが、月亮は彼の裏切りに気付いていました。
本土と手を結んで、謀反を企んでいることまで読みながら、しかし、月亮は敢えて何もしないつもりのようです。
部屋に一人になった彼は、自分が殺してしまったと思い込んでいる飛くんを想い、涙を流します。

「ああ……小飛(シャオフェイ)……おまえを、この手で、殺した。おまえの命を、二度までも……あろうことか、この手で。
なぜだろう……やさしく、清らかに……これほど汚れた腕のなかでも、まっすぐに育ってくれた。
いまさら、言うてみても遅い。けれど、間違いなく、おまえを……愛していた。あまりに愛おしく、あまりに憎かった。
だから、おまえへの手向けに……これからこの島を、わたしは覆そう」(151頁)

師父(月亮)の後悔と飛くんへの想いがひしひしと伝わってきます……(涙)
しかし、このひと、本当に思い込み人生だなあ…(苦笑)、気の毒な方です。
そんな哀しみと失望感に苛まれる月亮は、ついに、島ごとを滅ぼす道を選びます!なんて極端な!!
実は月亮の元には、『朱龍(チューロン)』からの白龍を滅ぼす為に手を組もうという書状も届いていました(汗)。
あんの、わがまま姫、幾ら飛くんが気に入らない(正確には気になっている、だと思いますが/苦笑)からって、
こんなことを仕出かしていたとは…!!

策士蜂焔も、月亮が自分の企みに気付いたかもしれないと察し、
北里の西里攻めに際して、本土も西里に攻め込む手筈を急いで整え始めました。
…ということは、何と、西里白龍は、黒龍、朱龍、本土の三方から攻め込まれることに!!
ピンチです!大ピンチです!!(焦)

飛くんは、本土伍家襲来の前に、毛家と黒龍屋敷を抑える為に、冬眠には決起勢の旗印となって欲しいと頼みます。
そして、猫のように、老頭(ラオトウ)のやり方に疑問を抱き、現状を嘆いている黒党羽(ヘイタンユイ)の若い廟主(ミャオシュ)を説き伏せて、
手勢の主力にすることを提案します。
それに、考えてみようと返事をして一日か二日の猶予が欲しいと答えた冬眠。

夜、そんな冬眠の部屋に、雷英が訪れます。
そのことを予期していたように迎える冬眠に、雷英ははっきりと、決起の旗印には、飛くんを掲げたいと言うのです。
その言葉にも全く驚くことなく、自分もそのほうがよいと思っていたと冬眠は答えます。
当代『黒龍』である自分よりも、先代長子の子で、
先代『朱龍』の子でもある『龍』の正統の飛くんのほうが旗印に相応しいと。
それに頷いた雷英は、すぐに思いつくはずのこの上策を決して口にせず、断固として避けるだろう飛くんの清廉さを言い、
この物騒な時期には最も『龍』たるに相応しい器であると自分の意見を言います。
しかし、飛くんは、西里へ戻ることが望みだとはっきり言っているのです。
そのことを指摘しつつも、冬眠は言います。

「では、命じようかな……黒党羽老頭どのの息子どの。
兄上のお子である飛蘭(フェイラン)の名を戴いて、傾きつつあるこの北里を急ぎ平らかになすように」(174頁)

こうして、飛くんは、知らないうちに『龍』候補に祀り上げられる嵌めになってしまいます。
『黒龍』の跡継ぎになってしまえば、当然白龍に帰ることもできません。
うう…飛くんにとってはこれもある意味ピンチな状況です(汗)。
そんな叔父従兄(雷英の母親は飛くんの伯母なので、彼らは従兄弟同士なのですよ!)の密談を露知らず、
疲れ切って眠る飛くんは、マクの夢なんかを見てるようです…(哀)

そして、二日後。
冬眠は何食わぬ顔で、飛くんの願いを受け、黒党羽の根城である龍巣(ロンチャオ)の廟堂への使いを飛くんに命じます。
すぐさま、出発しようとする飛くんに、冬眠は白龍攻めの件を白龍へ知らせなくていいのかと問います。
それに、知らせをしなくても、白龍はきっと大丈夫だと飛くんは請合います。
すると、冬眠はふと申し訳ないような顔となって、
「あなたはずいぶんと、西里を信じ、愛しているのだね」と意味深なことを言いやがるのです(苦笑)。
しかし、これからのことで手一杯の飛くんは、「そう思う」ときっぱり返事をしただけで、
その言葉の深い意味まで考える余裕がありませんでした(汗)。

そして、白龍では来る災難に備え、大急ぎで街の体勢を立て直し始めます。
花路と協力して、屋敷と花路の和解を街じゅうに知らせて回り、素封家の立ち並ぶ龍江街(ロンチャンチエ)には、
羅漢を引き連れたマクが自ら出て回り、これ以上欲に駆られて愚行を犯さないよう、しっかり首根っこを押さえます。
それから、李(リー)、燕(イェン)、一星(イーシン)を呼び出し、西海風(シーハイフォン)の船子頭に留まっていた李を頭領に任じ、
取り潰しにした祥船(シャンチョアン)を一星が中心となって再興することを許します。
そうした上で、西海風、富浪(フーラン)、祥船に、取り潰した大船主組合に代わって、白龍の港を仕切るよう命じます。
そこに、青龍(チンロン)から高楼街(カオロウチエ)の頭、酔熊(ツォイション)がやってきます。
酔熊は本件に入る前に、そこに居る皆に、飛くんの無事を知らせるのです。
確かに飛くんが生きているという知らせに、花路も船主の面々も感動を抑え切れない様子でしたが、
酔熊が次いで切り出した本件は、『青龍』が天狼(ティエンラン)に攫われて行方知れずというありがたくない話でした。

本土伍家では、当主天鳳(ティエンフォン)が、誘拐してきた『青龍』を上手いこと唆して、
伍家が白龍に手勢を差し向ける理由となる書状を作らせます。
そして、マクの養育係であった王老人(ワンラオレン)がいる外人居留区の『白龍』所有の館に人をやって、
白龍と連絡が取れぬよう抑え込むのです。

そして。
飛くんが去った後、冬眠は大分回復した草朗と飛くんのことを話します。

「……力強く、歩むかたですね」
「ああ、そうだね。きっと、望みを強く持つからだろう」
「望み」
「そう。残念ながら、叶わない望みではあるけれど」
「え」
叶わないとはどういう意味と、侍者は目を瞠る。
彼に向かって、おっとりと笑いかける冬眠だ。
笑んだままのそのまなざしを、す、と西の方角へ向けて、
「かわいそうだけれど……あの甥どのが晴れて西里へ戻ることは、おそらく、二度とないだろうね」(241〜242頁)

やっぱり…!!(泣)
知らないうちに、西里へと戻る道が断たれてしまった飛くんは、これからどうするのでしょう?!
そして、三方から敵に攻められることになる白龍は?
それを阻む助けともなる飛くんの黒党羽への説得は成功するのでしょうか?
飛くんとマクは無事、暁を迎えることが出来るのでしょうか?!!
確実に、茨の道を歩むことになる飛くんにひたすらエールを送りつつ、「龍は暁を求む」れびゅも終了でございます。
お付き合い有難うございました!!(拝伏)
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