龍は落陽を咬む
四龍(スーロン)島シリーズ緊迫続きの(苦笑)十八冊目は『龍は落陽を咬む』。
「落陽」という言葉がこれからのストーリー展開に不穏な影を感じさせる、何とも不吉なタイトルであります。
闇のような薄暗い背景に、夕陽色のマクと暗い青色の飛くんが描かれている表紙イラスト。
逆さまの構図で、瞳を閉じて両手を胸元にやっている飛くんの横顔が苦しげで儚げです(哀)。
そして、腰が細いです!!…いや、拝見するたびに、感心するものだから、つい指摘してしまいます(笑)。
マクはいつもどおりの底の見えない薄ら笑いで。
…こうして、ふたりに対するコメントに差が出てしまうのは、愛の差でしょうか(苦笑)。
本土から戻ったマクシミリアンは、即座に街じゅうに触書を出した。
花路(ホワルー)、龍江街(ロンチャンチエ)、大船主組合の全てを追い落とすかのようなその内容に、街は騒然となった。
方々から『白龍(バイロン)』排斥の声があがり、一触即発の空気が漂う。
それを裏で煽動しているのは、白龍転覆を目論む東州茶房(とうしゅうさぼう)主人こと月亮(ユエリャン)だった。
そしてついに、「花路が大龍(ターロン)の子を擁している」という決定的な噂が流されはじめて……。
(文庫折り返し部分より)
…あわわ、この(↑)あらすじ部分を読んだだけでも、切羽詰った状況が推察されます!(汗)
「街のことなぞは知るか」と言わんばかりに、飛くんを自分の手元に引き寄せたいが為だけに、強引な触れを出すマク。
その触れは、花路の退去、素封家が多く住まう龍江街に対する課税、
青龍との騒動の後細々ながらも存続していた大船主組合の取り潰しの三つを命じるものです。
それに乗じて、街に更なる混乱を引き起こそうと暗躍する師父(シーフ)、こと月亮。
「人の口に戸は立てられない」ということで、噂を利用して、街の人々の心を乱し、
『白龍』に対する不信を植え付けていった彼のやり口は、敵ながら巧い…とは思います、くそぅ…←憎々しげ。
以下、流れに沿ってストーリーを紹介していきませう。
まずは他市の様子から。
南の朱龍(チューロン)市には、北の黒龍(ヘイロン)市主人、冬眠(トンミェン)から書状が届きます。
そこには、短い文面で、近いうちに西の方に騒動の起こる気配があるが、くれぐれも手出しなきようにとのみ書かれていました。
それを聞いた『朱龍』、夏燐(シアリン)は愉快だと嗤います。
「ついでに、ひとを箱のなかの紅玉なんぞと抜かしてくれた半龍(ハンロン)の恋童めに、
ひどい罰でも当たってくれるとより愉しい」(21頁)とまで言います。
いやあ、何なんでしょう、この『朱龍』のたった一度会ったきりの飛くんに対する拘りっぷり!
もしかして、飛くんのこと好きなんじゃねえの?
…と、勘繰りたくなってしまいますなあ…(笑)
また、東の青龍(チンロン)市にも近頃の白龍の危うい様子が、それとなく伝わってきています。
『青龍』、麗杏(リーシン)は、相変わらず頭のネジが緩んだままですが(汗)、
西里に嫁いだ大事な姉上を襲うかもしれない危険を双子の直感か何かで感じるらしく、
歌声の合間に幾度も姉に戻ってくるよう呼び掛けているのです。
そんな彼の様子を窺いつつ、飛くんを案じる高楼街(カオロウチエ)の頭(トウ)、酔熊(ツォイション)。
問題の白龍市では、月亮の命を受けた蜂?(フォンイェン…くそう、イェンの漢字が出ない…焔の旧字体です/苦笑)の策により、
それまでは白龍屋敷派と花路派に分かれていた街の人々の殆どが、花路の肩を持つようになってしまいます。
また、龍江街も密かに船主組合と話し合いを持ち、『白龍』に対抗する為、花路の後押しをすることにします。
一方、白龍屋敷執事の万里(ワンリー)は、これほどまでに早く屋敷と花路の仲違いの噂が、
街じゅうに広まってしまったことをいぶかしんでいました。
本土から戻ってきたマクに、一刻も早い花路との和解を勧める万里に、マクが示して見せたのが、花路退去の触れでした。
この街が不安定になっているときに、更に人々の反感を煽ることになるだろう触れを出そうとするマクに、
再考を願う万里でしたが、マクは全く聴く耳を持ちません(汗)。
そして、龍江街がとうとう花路に接触します。
『白龍』の身勝手に異議を申し立てる際には、龍江街と大船主組合が後押しをするという話を最初に受けたのは、孫(スン)でした。
飛くんが花路を抜けたいと言ったことを、羅漢(ルオハン)と葉林(ユエリン)の会話から知ってしまった孫は、
持ち出された話を受ければ、飛くんを花路に引き留めることができるかもしれないと考えます。
直情型の浅はかさで(毒)。←ヒデェ。
急いで戻る途中で、東州茶房へ師父の話を聞きに行くつもりだった羅漢と出会い、
重要な話だからと彼を連れて花路へ戻った孫は、大兄ふたりに相談します。
『白龍』への反感を抑えきれなくなってきた孫は、龍江街からの話を受けたいと言いますが、冷静な葉林は異を唱えます。
進んで騒乱の元になるようなことを、頭も許す筈がないと言う葉林に、羅漢も同意し、
この話は一時棚上げとなりますが、その翌日、ついに触れが発せられ…(汗)
そこにやっと、飛くんが戻ってくるのです。
しかし、既に街じゅうに触れが行き渡り、増幅する人々の『白龍』への反感を目の当たりにした飛くんは、茫然とします。
守りたかったものをほかならぬ自分が壊していくことに心を苛まれつつ(でも、
飛くんが壊してるわけじゃないと私は思いますが)、飛くんは、花路へと戻ります。
仲間の安堵と無事を喜ぶ歓声に迎えられた飛くんでしたが、落ち着く間もなく、これまでの経緯を訊きます。
いきなりの触れに屋敷を訪ねていっても門前払い、しかし、街の大方の意見が花路寄りになっていること。
更に、打ち明けることに難色を示した葉林を留めて、羅漢が龍江街からの話を皆の前で明かします。
街の人々ばかりか、龍江街と船主組合からも味方を得たと喜ぶ仲間の姿に、飛くんは衝撃を受けます。
今にも飛び出していきそうな彼らを、必死で留めた飛くんは、羅漢と共に白龍屋敷へと上がることに。
しかし、孫には「見捨てないでくれ」と土下座され、羅漢にも
「思い詰めている理由をどうして教えてくれないのだ」と責められて、飛くんいっぱいいっぱいです(涙)。
だ〜か〜ら〜っ!そうそう打ち明けられる事情じゃないんだってば!!
と叫びたくても叫べないこの状況(泣)。
そして、訪ねた白龍屋敷では、やっと万里が応対に出てくれましたが、
今更発せられた触れを取り下げることはできないことを痛感するばかりでした。
それでも諦めきれない飛くんは、羅漢の「それほど、あの『白龍』をあきらめ難いのかっ」
と難じる言葉(嫉妬だね♪)を背に、直接マクに会うために、屋敷の塀を越えます。
しかし、居室の窓辺で顔を合わせたマクに、黒い銃口を突きつけられ、何も口にできなくなってしまいます。
生ぬるい嘆願の台詞は受け付けないと、マクに拒絶され、飛くんは屋敷を後にせざるを得なくなるのでした。
ちなみに、マクが手にしていた銃には、実は弾は入っていませんでした。
飛くんと心中するつもりなんじゃないかと、心配するクレイに、
「心中してみたい」とはっきり言っちゃうマク、イッちゃってます(汗)。
まあ、マクも結構ギリギリラインの精神状態だということで。
その頃、堪りかねた孫が、羅漢の代わりに話を聞こうと東州茶房を訪れてしまいます!(汗)
あー、駄目だよー!こんな熱血直情型の孫が行っちゃあ!!(羅漢も似たようなものですが)
…と、はらはらする読者(私)をよそに、ついに時が来たと判断した師父は、飛くんの身の上を孫に打ち明けるのです。
飛くんが大龍と正妻の尊夫人(スンフーレン)の子であり、生まれてすぐ大龍の愛妾が雇った刺客によって、
海に捨てられたのだと語って聞かせます。
大龍の愛妾が〜の辺りは、師父の嘘っぱちなのですが、飛くんの苦悩に心を痛め、
その原因であるに違いないマクに対する疑念を強めていた孫は、師父の話を丸ごと信じ込んでしまいます。
このままでは飛くんの命が危ない!と、怒りと決意に燃えて、花路に戻る孫を見送った師父は、
「花路が大龍の子を擁している」という最後の噂を流すように蜂に命じるのでした(汗)。
・「龍は落陽を咬む」名場面。
う〜ん、今回は名場面、というより、名台詞…というか、印象に残った台詞を取り上げてみたいと思います。
ここ最近は、そんな感じですが(笑)。
↑の師父がころりと騙された孫を見送った後の場面です。
飛くんを騙してるくせにぃ!!と、ぐちぐちと文句を言いつつ、師父の台詞は胸に来るものが多いのです(苦笑)。
苦しげな咳をして、涙を流しながら、孫に飛くんの身の上を語った師父ですが、孫が去った後も偽りの筈の涙が止まりません。
そこに、本当に薬を煎じてきた雷英(リーイン)が戻ってきます。
「お咳が、あまりに真に迫って聴こえましたので、つい……」
「そうですね。芝居ばかりをつづけていると、そのうちにそれが偽りであったか真であったかと……迷うこともあるものですよ。
そうと望まなくとも、偽りが真となることも、あるかもしれません」
(中略)
「なあ、雷英。
はじめのうちは黒針(ヘイシン)を使ってふさいだとはいえ、そののち幾年も芝居をつづけたこの目から、
しまいに光が失せてしまわないのは不思議だな。このごろは、こう思ってみるのだ。
神龍(シェンロン)は……もしや、わたしを咎めておいでなのではないか、とな。
愛しいあの子の酷い姿を、最後までその目で見届けよと……そのために、わたしから光を奪わずにおられるのではないか、と」
「……後悔されておいでなのですか」
「後悔?そのような言葉がこの胸に刻まれておれば、つまらぬ報復なぞはあきらめて、とうに北里へ戻っている。
こうしてここに留まっているのが、悔やむ心なぞ抱かないという、なによりの証だよ」
「さきほどの話……どこまでが偽りで、どこまでが真なのでしょう」
「さあ。とうに、そんなことは忘れてしまった。
もともと人の心などというものは、おのれに都合のよい幻をつくりだすことに長けているものだから……」
その頬を涙が伝う。
伝っては落ちていく。
懐かしい面影を眺めるようなまなざしで、揺れる灯火をじっと見守る東州茶房主人だ。
なあ雷英、と溜め息混じりの声音で呼びかけて、
「あの子は、なんと似ていることか……愛しかったひとに。あれは、罪だよ。手折るべき罪な花だ。
見事に咲いたあの花を、手折るためだけに……わたしは、これまで生き永らえてきた気がする」
(本文169頁〜171頁より)
飛くんを愛しい子と思い育てていたのは、偽りだったのかそうでないのか、
本人にも分からないと言っているんですよね、これはきっと。
しかし、これから失われるであろう(いやーっ!!/泣)花(飛くん♪)の命を思い、涙を流す師父の言葉の端々に、
飛くんへの深い愛情が窺えるような気がしてならないのです。
これぞ愛と憎しみの二律背反ですよ!!(ちょっと違うか?)
・「龍は落陽を咬む」ベストオブイラスト。
今回はこれにしようかなあ♪
199頁のイラストです。
「しようかなあ♪」と呑気に「♪」付きで紹介できるような場面のイラストじゃありませんが(苦笑)。
白龍屋敷から花路へと戻った飛くんは、羅漢の住処の古妓楼で、
孫が師父から聞いた飛くんの出生を羅漢に聞かせている場に遭遇してしまいます。
孫ほどではないにせよ、直情型の羅漢もまた、マクに対する怒りに震え、彼を排して飛くんを街の主に立てようと言い出します。
そのとき、飛くんの姿に気付いた羅漢と孫。
こんな大事なことを何故打ち明けてくれなかったと飛くんを責める羅漢。
そんなことよりも、といったん口を噤む羅漢の顔が、明りのなかで歪んでいる。
ぐ、とその手に肩をつかまれて、思わずからだが震えた。
相手の憤りと、悔しさとが、つかまれたところから流れ込んでくるよう。
……痛い。
けれど、いま後退るわけにはいかないのだと、懸命にそこに足を据えた。
(本文198頁)
この辺りを描いたイラストです。
険しい表情で見下ろす羅漢から、苦しげに目を逸らす飛くんの伏せがちの目が、
表情が憂いを帯びて何とも言えんのです…♪
いつも相手を真っ直ぐに見据える飛くんらしくない表情ですが、
こんな飛くんもいいなあ♪と不謹慎にも思ってしまいます(苦笑)。
しかし、きつめの眼差しが抑えられると、飛くんてば、おんなのこにしか見えなくなりますね(笑)。
マクを追い落として『白龍』になってくれと迫る羅漢たちを、飛くんは激しく拒絶します。
証のないことを真に受けるなと必死に言いますが、孫は師父から「証」について聞かされていました。
いきなり、ふたりから襲い掛かられた飛くんは、必死で応戦しますが、
結局倒されうつ伏せにされ、背中を露にされてしまいます!
ぎゃー、何すんだ、このセクハラ野郎どもぉ!!(悲鳴)
しかし、それは『飛雨に惑う』で黒党羽の頭にもされたことであり、
その行為(ヤな表現だな/笑)の理由がこの度、飛くんにも分かることになります。
飛くんの持つ証…それは朱龍の家筋良い女性(…笑)の習わしである花紋(ホワウェン)と呼ばれる刺青です。
生まれたばかりの頃に、縁ある花の花芯を彫り、一年ごとに花弁を彫り足していく…というもの。
また、それは家によって異なる特別な染料で彫られ、普段は目に見えず、身体に血が巡ったとき…例えば、
激しい運動をした後や、言わずと知れた閨の内なんかで、鮮やかに目に見えるものなんだそうで…
な〜んか、やらしいですね〜〜…(笑)
…まあ、それは置いときたくないんだけど、やっぱり置いておいて(笑)、元『朱龍』であった尊夫人は、
男の子ではあったのですが、生まれた子の背中に花芯を刻んだのだそうです。
それが今、神龍の刺青の下から浮き上がるように見えていると羅漢たちに告げられ、飛くんは茫然とします。
しかし、繰り返し『白龍』に立つよう頼み込む羅漢と孫に応えない飛くんに、再びそれほどあの『白龍』をあきらめ難いのか、
と嫉妬に狂った(?)羅漢は、出て行こうとする飛くんを力ずくで気絶させてしまうのです!!
悪い夢であってくれと、願いながら飛くんが気を失ったところで、
『龍は落陽を咬む』は完!となりました。
もうもう、だんだん飛くんを苦しめるアホどもが増えていく〜〜、うえ〜ん!!(泣)
いよいよ抜き差しならない状況になってきたこのお話、次回がクライマックスとなります。
あ、でも、クライマックス=エンドじゃありませんので、それはくれぐれもお間違えのなきよう(笑)。
取り敢えず、『龍は落陽を咬む』れびゅはここまで!
最後まで御覧下さいまして、有難う御座いました〜♪
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