聖なる水の神の国にて〜懐秋〜 追想 「あっ、見付けましたよ、流星さん!」 中庭の噴水の蔭で、流星・ティーンカイルは軽く肩を竦める。 火を付けようとしていた煙草を白い学制服の懐に仕舞った。 賑やかな声で呼び掛けて近付いてくるのは、同年代の少年に比べて、背も幅もいまひとつ足りない少年である。 「…全く、何処に雲隠れしたかと思えば。探すだけで疲れちゃいましたよ」 「そりゃご苦労さん。しかし、風矢。お前が探し易い場所にいなきゃならん理由は俺にはないぜ」 「分かってますよ」 からかうような言葉に頬を膨らませつつ、「風矢」と呼ばれた明るい髪色の少年は、用件に入る。 「神官長から伝言です。華王さんは試験中でお忙しそうだったので、僕が代わりに。 来週の講義は実技になるので参加するように、とのことです」 「へいへい」 「気のない返事ですね。華王さんはあんなに真面目なのに」 「本当に気がないからな。俺と華王は違う」 悪びれず言い返した流星に、華王を崇拝する風矢は、いつもの如く怒り出すかに見えた。 しかし、今日は違った。 まじまじと、そして、訝しげに流星を眺めている。 「何だよ、気持ち悪いな」 目の上に降り掛かる白っぽい金髪を片手で掻き上げつつ、眉を寄せた流星に、風矢は訝しげな表情のまま応える。 「…流星さんと華王さんって、全く共通点がありませんよね。 講義に対する姿勢もそうですけど、それ以外の日常生活での行動範囲も重なるところがないでしょう? それなのに、どうやって知り合って、仲良くなったのかと思って。やっぱり、お互いの特殊能力の所為ですか?」 「ほお。興味があるわけ?」 「ええ。気になります」 教えて下さいと、身を乗り出した風矢の鼻の頭を流星は軽く指先で弾いた。 「ぃたっ…!何するんですか!」 「やーだね。えっち」 「誰が「えっち」ですか!?ふざけないで下さい!」 「俺と華王の秘密の馴れ初めを教えろとは…」 「何が「馴れ初め」ですか!それとも、口には出来ないようないかがわしい出会いだったとでもいうんですか!」 「だから、秘密だって」 「もういいですよ!教えて下さらなくて結構です!!」 にやにやしながら応えた流星に、ついに風矢は憤然と背を向けた。 「残念でした」 手を振りながらの笑い声に煽られるように、荒い足音を立てながら、風矢は遠ざかっていく。 その背が回廊の角に見えなくなると、流星はそれまで浮かべていたにやにや笑いを消す。 「共通点がない…か」 思わず苦笑が零れる。 学院一の問題学生と学院一の優等生である。 確かに、一見したところ共通点はないように見える。 しかし… 「共通点がない訳でもないんだがなぁ…」 例えば、日常生活での行動範囲。 …その目的とするものは違ったが。 陽光に煌きながら流れる水に目を細めつつ、流星はそれほど遠くない日に思いを馳せた。 |
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